エピローグ

「…………あの、御船さん?」

「んー? なんだい、織部くん」

「今……何処に向かってるんですか、この車は?」

「ふっふっふ。それはもちろん――――到着するまで内緒だとも!!」

「はあ…………」


今、私は目隠しをされた状態で車に揺られていた。何故かって? 悪いけど、よく私も分かってないよ。なんなんだろうな、この状況は。誰か教えてくれないかな。ああ御船さん? 無理だったよ。なんせ冒頭と同じような会話、この車に乗ってから既に五回は繰り返しているからね。いい加減飽きてきた。一回くらい殴っていいかな、この上司。一回だけなら許されると思うんだ。


「そんなに警戒しなくていいのに。絶対気に入ってくれると思うから」

「いや、いやいやいやいや。何言ってんですか、あんた」


呆れて物も言えない、とはきっと今の私の心境のことを言うんだろうな。


「ワスレナグサの刀たちについての定期報告と管理者たちに課せられる定期検査から対策課に帰ってきたら、突然職員総出で気絶させられて……気が付いたら御船さんの運転する車の中だったんですよ? 今のところ気に入る要素ゼロなんですけど? むしろ機嫌が乱降下してますよ?」

「…………その言葉、ひょっとして俺のこと貶してたりする?」


…………ここは黙秘権を行使させていただきます。


「……………………ん゛っん゛ん゛」


気まずい空気に耐え切れなくなったのか、御船さんがわざとらしい咳ばらいをする音が耳朶を打った。


「ま、まあとにかく、だ! 着けば全部分かるから!」

「さっきっからそればっかりですね? もうちょっと語彙のレパートリーないんですか、御船さん」

「前から思ってたけど、何で織部くんって俺にはそんなに辛辣なの? 俺何かしたっけ?」

「……は? 自覚ないんですか? ドン引きです。私の御船さんに対する好感度がさらに落ちましたよ、今。あーあ、元から低かったのにぃー」

「ええぇっ!?」


多分今、御船さんが何かしらの反応を示したとは思うのだけれど……現在の私は誰かさんたちの所為で耳以外、効かない状況なんで……。

御船さんの方でも、それを思い出したのだろう。気を取り直すような声が聞こえた。


「ほ、ほら! 今回のことは東風谷くん主導だから! これなら少しは信用してくれるだろう!?」

「……は? 東風谷くんが? 何でまた」


信用というか、目的地がさらに分からなくなったんだが。こういうの、一番興味無さそうなやつが、主導だなんてどうして……。


「いやあ、すごかったんだよ東風谷くん! 関係各位に頭下げたり、舌戦を繰り広げたり、根回ししたりさ! あの子、あんな行動力を見せられる子だったんだね!? 東風谷くんと出会ってくれてありがとう、織部くん!」

「は、話が全然見えないんですが……? え、えぇと、ど、どういたしまして?」

「はははははっ、すぐに分かるよ――――そぉら、到着だ!! 待ってね、今目隠し外すからさ!」


頭の中を疑問符が埋め尽くし、状況にまったく着いていけていない。混乱するばかりで、ただされるがままに目隠しを外され、車から降りさせられた。

降りた先にあった建物を見て、私は目を見開く。

だってそこは、私がもう一度行くことを諦めていた、水族館だったのだから!


「驚いたろう? 流石に以前訪れたところは復旧作業が終わってないから無理だったが……どうかな?」

「そ、そりゃ驚いてますよ……でも、いったいどうして……」

「言っただろう、東風谷くんだよ。彼が関係者各位に働きかけて織部くんの外出許可を捥ぎ取って、自分のぶんと君のぶんの休暇を取得したんだ。どうしても君に、しっかりと水族館を楽しんで欲しかったんだって」


その話を驚愕に目を見張る。御船さんはそんな私を見て、楽しそうに笑っていた。そして、御船さんの手が私の背を優しく押してくれる。


「帰りも車で迎えに来てあげるから、行っておいで」

「……い、いやでも……本当に、いいんですか?」

「もちろんだとも。ほら、あそこを見てごらん?」

「??」


言われた通り、御船さんが示した方向に視線を向けると――――そこには、東風谷くんの姿が。彼は遠目で見ても分かるくらいの満面の笑みで、手を大きく振って私の名前を呼んでくれている。


「東風谷くんがお待ちかねだよ。――――そら、いってらっしゃい! 二人で楽しんできなよ!」


表情が、心よりも先に緩んで、勝手に口角が上がる。……ああ、もう! こんなサプライズ、嬉しいに決まってる!


「~~~~っ! はい、行ってきます!!」

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私が、人間であることの証明 遠槻 伊奈 @asdflkj

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