第9話
「…………ようやく、終わったねぇ」
「………………うん」
事件のあった水族館の復旧工事が進んでいる、と話すアナウンサーの声を聞きつつ、東風谷くんと並んでテレビ画面をぼんやり眺める。
正直言って今回の任務は、事件の真っ只中よりも事件収束後の方が大変だったように思う。何しろ人気の大型施設、そのメインとなる部分がほとんど全壊。イルカたちは何とか救出したものの、水族館復旧まで別の施設に預かって貰わなければならない。たとえ無事復旧し水族館の営業が再開したとしても、今回の事件は白昼堂々、かつ大勢の人が巻き込まれた。だから水族館側は警備体制の見直しと、しばらくの信用回復に努めなければならないだろう、と御船さんは言っていた。
そういうわけだから、連日ニュースでてんやわんやと騒ぎまくり。しかも、騒いでいるのは一般社会だけではなく、園芸局側もだ。
犯人の男が持っていた
兎にも角にも、
だがしかし! 私たち二人は、つい今さっきの時点で任された仕事を全て終わらせたのだッ!!
「ああ~~~~ついに解放された~~~~。娑婆の空気は美味しいぜ~~~~」
「……それ、使い方違くない? 多分だけど」
「ふっふっふっ! そんな細かいことはもう気にしなくって良いのだよ東風谷くんッ!! 解放感さぁいこー!! バンザイ!! いやっふぅー!! 織部いさな、ただいま地獄より帰還いたしましたァ!! 書類仕事なんざウンザリなんじゃいクソがぁ!! ……あれ? 東風谷くん、どうかしたの?」
そんなふうに私が膨大な仕事量から解き放たれたことの解放感と、連日連夜重ねまくった徹夜からくる謎のハイテンションで、大きく伸びをして、椅子をトランポリン代わりにジャンプしまくり、挙げ句部屋中を何周も跳ねて回り、その全てに高笑いのオプション付きとかいう奇行を惜しげもなく披露している真っ最中。
東風谷くんはと言えば、どこか暗い表情で俯いて、見るだけで分かるくらいにハッキリしょんぼりしていた。私は原因に心当たりがあらず、どうしたのだろうかと首を傾げた。
「うーん……もしかして、
「いや、それについては、まっっっったく気にしてないけどね?」
「Oh……そうですかい……」
だいぶ強めの否定だった。ちょっと傷付いた……しょぼん。
「ただ……その……」
が、打って変わって東風谷くんはモゴモゴと言い淀む。ええい、いったい何だって言うんだ。はっきり言ってくれよー。
「あー……あの、さ……」
「はぁい?」
「…………い、」
い?
「イルカショー……織部さんは、あんなに見たがってたのに……って、思って……」
…………へ? イルカショー?
「……えっ? 気にしてくれてたの?」
返って来た意外過ぎる答えに、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。
確かに私は第一級危険指定封印物を暴走させた責もあって、封印課に逆戻りまではいかなかったけれど、一度は緩んだ外出制限が再び厳しくなる運びとなった。
もう一回水族館を訪れるのは…………不可能とまでは言わないが、また都合よく任務で水族館に行かされることがなければ難しいだろう。
でも……東風谷くんが気にすることじゃないのに……。
「全然気にしなくていいのに! 別に、水族館に行かなかったから死ぬってわけじゃないしさ!」
そう明るく言ってみたけれど、私の声音に反して東風谷くんの表情は、どうしてだか暗いままだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます