Act1 Scene1-4 吸血鬼とロザリオ

「...場は...然とし......爆発のあった...番..差点では...在も...援活動が...けられ...」

 

 ーテレビの音が聞こえる。爆発?救援活動?私はなにをし...。

 そこまで考えたところでシェリーは"直前"を思い出し目を見開いた。


「え」

 そこは、広い個室の病室だった。

 状況が読めずあたりを見回していると開いていた扉を通りかかった看護師と目があった。

「「あ」」

「あ、すぐ先生をよんできますね!」

 そういって看護師は、飛んで行ってしまった。


 2,3分くらい経っただろうか、シェリーにとって聞き覚えのある声が病室に入ってきた。

「えー、失礼しますー、はい」

 優しそうな少し初老の雰囲気を出した医師が入ってきた。

「バーニス先生!」

 シェリーにとってバーニス医師は何よりも安心のできる人物であった。

 シェリーは"人間に天族の血が少し混ざったハーフ"という少し異質な存在であったため物心ついたころから専門医であるバーニス医師のお世話になっている。バーニス医師はゆったりとした口調で続けた。

「久しぶりですね、シェリーさん、ええ。前回の定期検診はそこまで変な結果は出ていなかったと思っていましたが、はい。少し私の見積もりが甘かったみたいです、ええ。」

「どういうことですか、先生?」「というか何がおきたんですか?私、状況が全くこれっぽっちもわかんないんですけど。」


 シェリーが困惑を戸惑いを見せると、バーニス医師もうんうんと頷き、話を始めた。

「えー、シェリーさん。今回の出来事はですね、はい。まさに奇跡というか神がかった、極めて稀な出来事としか言いようがありません、ええ」

「魔族の先生が神を信仰するんですか?」

 シェリーはいよいよわけわからない、と、バーニス医師を少し皮肉った。

「そうですね、はい。私のような吸血鬼をはじめとして魔族にも、創造主への信仰を持つ方はいらっしゃいます。えー話が少し逸れてしまいましたね。」

 バーニス医師は真正面から答え、話をつづけた。バーニス医師は、シェリーが瓦礫の山の中で生き埋めになった状態で救出され病院に運ばれたことを説明し始めた。

「シェリーさん、ええ、あなたはですね、はい。この瓦礫から救出されたときにはすでに呼吸はおろか脈もなかったとのことです、ええ。脳を含む重要な臓器に大きな損傷を負っており手の施しようがなかったと救助隊員の人からうかがっています、ええ。」

 

 シェリーはここまでバーニス医師の話を聞いてみたが不可解な点しか見当たらない。というのも、シェリーはさっと腕や体を確認してみたが何らの点滴の管も刺されておらず、何の外傷も残っていなかったからである。

「えっと、いよいよわけが分からなくなってきたよ、先生。私は重傷を負ったんじゃないの...?」

 混乱しているなか、さらに病院に運び込まれた時には死んでいたといわれ、シェリーはいよいよ頭を抱えた。バーニス医師はそれに頷きながらも話をつづけた。

 

「しかしですね、ええ、病院に向かう途中、医療ポットの中であなたの体は再生し始め、病院に到着した時には再び呼吸していました。」

「シェリーさんの持つ血はですね、ええ、少し特殊でしてね、はい。人と天使という稀な組み合わせであるんです、ええ。これはですね、ええ、天使が基本的には他種族とは交わらないという種族的な暗黙の了解のようなものを持っているからなんですけども、ええ。」

「つまるところです、ええ、シェリーさんのこの現象については前例がほとんどといっていいほどありません、はい。ですので今、世界中の文献を調べているところです、ええ。少し時間がかかるかもしれません。」


 そこまで言い終えてバーニス医師は、最後に「ただ」と言い付けて。

「私のこれまでの研究では、ハーフの多くの子たちは、その意思決定ができるようになる年齢になると、両親のどちらかもしくは両方の特性が現れる傾向にあります」

 初老の医師はぺこりと頭を傾けた。



 その日、親友のエリラとリサンドラが瓦礫から救った少女とその母親を伴ってシェリーを訪ねてきた。エリラは目を輝かせながら、シェリーが不思議な力で少女を救ったことを話してくれた。


「本っ当に、ありがとうございます」「ありがとうーおねえちゃん」

 母娘から感謝をされた。シェリーはその日の出来事の多さに頭がついていかずポカーンとしていると、リサンドラが助け船を出してくれた。

「シェリー、君が瓦礫から助けた女の子だよ。覚えてない?」

 そこまで聞いてシェリーは「あっ」と思い出した。同時に少女とその母親が、感謝の眼差しでシェリーに近づいてきた。二人は命を救ってくれたことに再度感謝し、部屋を出て行った。


 

「さて」

 残ったエリラとリザンドラは何か聞きたいことがあるらしく話をつづけた。話を切り出したのはリザンドラだった。

「ねぇシェリー、私たちね、あの後少しだけ調べたんだ。今日のシェリーは少し...いつもとは違ったからね。」

 続けて、エリラが話した。

「シェリーさまが、先ほどのお子さまを助けるため、お使いになられたのは"元素操作"、そう呼ばれる魔法と思われますわ」

 シェリーはエリラに疑問を返した。

「元素ってあの五大元素の元素のことだよね」

「えぇそのとおりですわ、地、水、風、火、そしてエーテル、これら5大要素をのことですの」

 そしてエリラは話をつづけた。

「じつはわたくし、あの後リザンドラさまとアカデミアの大図書館で少しばかり調べ物をしまして...」

 リザンドラが話を補った。

「えっとね、実は私たち、今日シェリーの身に起きてたことについて何もわからなかったんだ。あの時瓦礫をどうにかした魔法が何だったのか、瀕死だったシェリーがどうやって無傷の状態にまで蘇生したのか、とかね」

「後半部分はわからずじまいでしたわ、ですが、シェリーさまが使われた"魔法"についてはアタリがつきましたの。」

 そう言って、エリラは装丁のしっかりしたとても分厚い本をシェリーに渡した。

「しおりが挟まっているページですの、わたくしたちが説明するよりも一度シェリーさまに読んでいただいたほうがとおもいまして」


 そこには、このようなことが書かれていた。シェリーはこれを要約しながら読んでいった。

「えっと、"元素操作"、地、水、風、火そしてエーテル、1つまたは複数の元素を操作する魔法のこと。この魔法により、嵐や地震、高波などの自然現象を作り出し、操ることができる。また、自身も操ってい元素と同じ属性に偏るようになるため対となる属性の弱点となる。これは火は水に弱くなるとかそういうことかな。それで、最後は…え、どういうことなの...?じゃあ私って、何なの...?」

 シェリーは茫然とエリラとリザンドラを見返した。視線は泳いで二人にピントが合わせられない。

「わたくしとしてもこれは予想外でしたの。そこでシェリーさまのお医者さまにきいてみましたのですが、ハーフの子供で特に天使の子供は前例が少なすぎてなんとも...とのことでして」

 リザンドラも補足した。

「シェリー、この国は他種族が混じった国だ。シェリーは最大数の人族のハーフでもあることは私たちも知っているんだけど、隔世遺伝って可能性だってある。まぁいずれにせよだ。シェリーが"吸血鬼"と天使のハーフだっだとこでシェリーはシェリーだし、何ら私たちの関係は変わんないよ」

「そうですわ。それに、シェリーさまは言葉の噓偽りには鋭いのではなくて?」


 シェリーは目の奥に熱を感じたが友人の前では我慢した。胸のつっかえをこらえて2人の友人たちを見送るまでは。


 ~元素操作は魔族の吸血鬼の生来固有の魔法として確認されている~

 2人の友人が帰った後、シェリーはベッドのシーツにたくさんの雫をこぼしながら、自身と吸血鬼ということについて向き合った。

(現在の国王が他種族政策を推し進めて魔族を含めエルフ族、人族、獣人族、そして天族が事実上平等となった、でも実態はそうじゃないことはわかってるんだよ、そんなことこの街に住んでいればいやというほどわかるよ。でも)

 最大数の種族である人族と最も仲の悪い魔族のリサンドラから、たとえ魔族であったとしても...と言ってもらえたことが何よりのシェリーの支えになった。



 母ミリアムが顔を青ざめさせ、不安げにやってきたのはその後のことだった。彼女がシェリーの隣に座ったとき、シェリーはミリアムの目を見ることができずうつむいていた。少しだけ沈黙が続いたのち、ミリアムが切り出した。

「シェリー、こんな時に申し訳ないのだけれど、こんな時だからこそ大事なことを言わなくちゃいけないの、聞いてくれる?」

「......うん」


 彼女は大きく息をつき、しばらく間を置いた後、シェリーがミリアムにその日聞きたかった本当のことを話し始めた。

「今まで黙っててごめんなさい。シェリー、実はあなたは養子なの。吸血鬼と天使のハーフなのよ」

 友人が来てくれなかったらもっと驚きがあったかもしれない。でも、いまのシェリーはそのことに驚きをあまり覚えなかった。ただ、自分の母がどことなく少しだけ遠く感じてしまうような錯覚にシェリーは陥った。

「うん....さっき知ったよ、友達がそういう可能性もあるって教えてくれたんだ。だからそうだろうなって思ったよ...」

「エリラちゃんとリサちゃんもきたのね?」

「うん、私が瓦礫から助けた女の子つれて見舞いに来てくれたよ。」

「そう...」

 

 その後はお互いの過去の話に華を咲かせたが、不思議とこれまで身近だった母との距離感が、どうもつかみづらくなっている気がした。それはミリアムも感づいたようで。

「シェリー、これで私たちの関係が変わるとかそういうのはないのよ、だから何も心配することはないんだから」

「うん」

「あとそれとね」

「うん?」


 そういってミリアムは鞄から何やら見覚えのある木箱を取り出した。

「ナサニエルがね、これを渡す時が来たって。」

 箱の中には、ちょうど一日前にシェリーが彼の店で見た、美しく神秘的なロザリオが入っていた。

「ナサニエルが、私に?どういうこと?お母さん」

 シェリーは首を傾げミリアムに問うた。

「これはね、あなたのお母さんから預かったものです」

「お母さん...」

「ええ、シェリーを産んだお母さんです。時が来たらこれを渡すようにとだけ言われてたのですが、今がその時みたいですね」


 ロザリオを握ったとき、シェリーの体中のエネルギーが整えられるような安息感を得た。

「ねぇお母さん、このロザリオつけてもいい?これまで私はすごく息苦しく生きてきたみたい。でもこれがあれば、なんていえばいいんだろう、呼吸が楽になるみたいなそんな感じがするんだ」

「ええ、もちろんよ」

 ミリアムは瞳に涙を滲ませながら快諾した。

 

 このロザリオが、シェリーの過去を明かす鍵であり、シェリーの新しい能力の源となることをまだ彼女は知らない。

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エンジェル・ヴァンパイア @u-nyu

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