39 エピローグ
それから数日後のことだった。
フィーティアとユーハルド側で協議を行った結果、サフィールの処遇が決まった。
『ユーハルド王国、ベルルーク領内にて身柄を軟禁』
流石に一国の王子という立場のためか、フィーティアの牢に収監されることだけは免れた。今後はベルルークにある、
当面の間は表に出られない。
監視の元で彼に許されるのは、ただ静かに過ごすだけだ。
それはつまり、王位の座が無くなったのも同然で、ライアス王子を脅かす者はひとり消えた。
「——以上が、此度の事件のあらましにございます。陛下」
ロイドが片膝を折り、寝台に横たわる影に
ここは、ユーハルドの王レオニクスの寝室だ。長い天幕越しに、頷く父の影。先の騒動を報告したロイドは、立ち上がると、壁の端に立つ、灰緑髪の侍女へ目配せをした。侍女が無言で頭をさげる。その際、一本の太いみつあみが
「宝剣の行方ですが、引き続き、鳥たちに探らせております。どうかいま暫くの猶予を」
「……、……」
かすれた声。王子の位置からはよく聞こえないが、ロイドには聞こえたらしい。
「もちろんでございます、陛下。宝剣——いえ、その
微笑を浮かべ答えたロイドに、満足そうにかの影は頷いた。
◇◇◇
「ライアス殿下。私はこれで。ロビン——いやエレノア。おまえは与えられた任務に戻りなさい」
「御意に。ロイディール様。すべては我らが
「よろしい。それでは殿下、失礼いたします」
王の私室前。ロイドは王子に頭をさげ、長い廊下を歩いて行った。
「ライアス様。わたくしは先に離宮へ戻っております」
侍女——エレノアが一歩下がる。しかし、それを王子が呼びとめた。
「待て」
「なんでございましょう」
「豊穣祭のおり、余は何者かに誘拐された。その際、やたらとうるさい鈴の音が聴こえての。なにか覚えはないか?」
「いいえ。ございません」
「そうか」
顔色ひとつ変えず目を伏せる侍女に、「その鈴は外せ」とだけ告げて、王子はその場をあとにした。
「——まったく。どいつもこいつも敵だらけだの」
ぽつりと漏れたつぶやきは、朝の静かな廊下を流れていった。
◇◇◇
「うーん……王子を誘拐したのって誰なんだろう」
ゼノはパンを片手に頬杖をついて、窓をみた。早朝、自宅にて朝食をとっていたゼノは、手元の日記に目を落とす。
先月の王子誘拐事件。実行したのはエドル含めた賊だが、裏で糸を引いていたのは、王子を敵視する高位貴族の者だった。ゼノとしてはてっきり、サフィールが指示したものだろうと思っていた。なにせ、例の魔石の件もある。最初から彼が仕掛けていたに違いない。そう考えていたのに、そんな予想はすんなり外れた。
「まぁ……いくらなんでも考えすぎか。そもそもピナートのことだって偶然だろうし」
妙な魔石の流入。
あれは確かにサフィールがイナキアから買い求め、ピナートの連中に流したものではあるが、ではいったい誰が
いくらなんでも、自国を陥れようとまではサフィールとて思うまい。事件は表上、サフィールの自作自演として片付けられたが、どうにも腑に落ちない。
ゼノは昨晩つけた日記を見ながら、思考の迷路に陥っていた。
「——まぁ、でも。ひとまずひと騒動終わったし、いいか」
ぱたんと日記をとじ、立ち上がる。
「出かけるの?」
「うん。ロイドに言われた研究所に寄ってから、王子のとこに行く」
いつのまにか勝手に居ついたリィグに返事をかえす。
「じゃあ、僕も」
暇そうにごろ寝していたリィグが、あくびをしながら扉へ向かうのを目の端でとらえ、こちらもいつものようにローブを羽織る。
さぁ今日も仕事だ。気合を入れてゼノは家を出た。
—— 完 ——
ここまで読んでくださり、ありがとうございました!
こちらは第一章にて打ち切りENDです。詳細は近況ノートをご覧ください。
王佐ゼノ ~妖精国の魔導師~(旧版) 遠野いなば @inaba-tono
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