第四話 紛い物

 どうしよう、絶対大羽君に嫌われた、絶縁とか言い出されるんじゃないかな。

 これも私の自業自得だから仕方がないのか、、


 せっかくできた『居場所』をできたその日に、自分の独占欲によって壊してしまったかも

 私のことを認めてくれたのに、私の手を取ってくれたのに、、


 私は大羽君と座った二人きりのベンチで、一人恐怖心と自己嫌悪に染まっていた。

 彼の表情を見るのが怖くて、目を合わすことができない。

 

「あの、氷柱さん」


 あぁ、これでまた一人ぼっちか、、、

 別に昨日と同じになるだけ、ただ今日がおかしかっただけ、そう思っても今までとは比にならないぐらいの孤独感が襲ってくる。


「本当に申し訳ないんだけど、、あれは、、恋人としての『付き合う』ではないんだ、、、」


「え?」


 私はてっきり、今日のことはなかったことにしようと告げられるものだと思っており、驚きの声をあげる。


「いや、別に氷柱さんに魅力がないわけじゃないし、僕だって、、恋人に、、なれるならなりたいよ。でも氷柱さんの、、彼氏とか、、僕に釣り合うわけないし。そもそも、恋とか分からない人に勘違いでも付き合ってもらうのは気が引けるというか、なんか申し訳ないというか、、」


 彼の言葉に嘘はないようだ。

 あぁ、彼は私が勘違いしていると思っているのだな。私はその思い込みに乗っかって自分の嘘をなかったことにしようかと一度思った。しかし、彼を見ているとどうもそうする気にはなれなかった。


 正直に打ち明けよう、

 そう心に決めたのだが、いざ口を開こうとすると、恐怖心がさっきより濃い色に染まっていく、口は鉛がついたと錯覚するほど重い。

 私は一度大きく深呼吸をし、彼の目をしっかりと見て、口の鉛にあらがって、やっとの思いで言葉を声にした。


「ごめんね、、大羽君、、実はね、、わかってたの。でもね、大羽君が離れちゃいそうで、、とっさに、、嘘をついたの、、ごめんね、、」


 私はこれだけのことを言うために1分ほどを使った、それほど私は本当のことを言うのが怖かった。


「そうなんだ、、でも大丈夫だよ、氷柱さんの気が済むまで付き合うって約束したから、、」


 それに対して応えたときの、彼の嫌悪感などを一切含まない、むしろ純度百パーセントのやさしさを詰め込んだ声色に、私は安心感を抱き、本日二度目の涙を流した。


 先ほど結んだ涙腺はしっかりと結べていなかったようだ、今度はしっかりとほどけないように結ぶと心に決めた。

 でも、今は安心感に浸っていたいと言っている心に従うとしよう。


 ==========


 氷柱さんは数分間、涙を拭いながら僕に体を預けていたのだが、落ち着いたのか僕に一言あやまって、姿勢を戻した。そして、少し申し訳なさそうな表情で口を開いた。


「大羽君、私の心の中の話になるんだけどちょっと聞いてもらっていい?」


 氷柱さんのことを全然知らない僕はどんなことでも知りたかった、そうして僕はそれに頷いた。


「私ね、大羽君が初めてだったの、自分のことを打ち明けたのは。だから大羽君が手を取ってくれた時、もう君の前では『私』を演じなくていいんだって、安心できたの、やっと私の居場所ができた気がしたの。」


 彼女は彼女自身のマイナスな部分をさらけ出している。それを感じた僕は相槌を打つこともできなかった。


「それで、あの時私と大羽君の時間が減るのが嫌で、『私』を休める時間が減るのが嫌で、とっさに嘘をついちゃったの。全部私のエゴなの、、だから大羽君が気にする必要はないよ。全部悪いのは私だし、、」


 彼女はため息を一度はいて、どことなくはかなげな空気をまとい、予想だにしなかった提案をしてきた


「やっぱ私には無理なんだよ、だからさ、、、朱莉に頼んでおくからそっちに手伝ってもらって、、」


「嫌だ、僕は氷柱さんがいい、、」


 後から考えるとめちゃくちゃ恥ずかしい言葉だが、この時は頭で考える前に自然と口から出ていた。


「そういうところも含めて氷柱さんがいい、だから、僕も一緒に抱えれるようになるから、一人で抱え込まないで、、」


 文章として成り立っているのかもわからない言葉が口から溢れ出てくる。

 僕はいつの間にか氷柱さんの手を取っていた、冷たい彼女の両手を僕の両手で包み込むように。


 ============


 大羽君の手はとてもあったかく、私のすべてを包み込んでくれているような気がした。


 大羽君はこんな私がいいって言ってくれる。

 それなら、私もネガティブに押しつぶされるのをやめよう、かといってポジティブになれるわけでもないが、、

 それでも、少しづつでも変わっていこう、大羽君との関係が対等になれるぐらいには。

 そんなことを考えていると、頭の中に一つの妙案が浮かんできた。


「ねぇ、大羽君、私たち付き合わない?」


「・・・え⁉」


「あ、そりゃあ、表面上だよ。そっちの方がこの関係的にやりやすいでしょ、私も告白とかされなくて済むし、、大羽君との時間を多くとれるから」


「あ、、あ、うん。じゃあそうしようか」


「じゃあ、改めてよろしくね、隼人」


「よろしく、、、椿」


 大羽君改め隼人の顔は街灯一つの明かりでもはっきりとわかるぐらい赤くなっていた。

 まだ対等とは言えない、むしろ私から彼への依存度が少し増した気もするが、この関係になれたことで、私から手伝えることも増えるだろう。

 





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