第三話 本屋にて
『ピンポーン』
僕が意を決してインターホンを鳴らすと、数秒もしないうちにドアが開き、白色のワンピースに薄黄色のカーディガンをはおった氷柱さんが家から出てきた。
シンプルな服装だけど、元のいい彼女にはとても似合っていた。THE量産系ファッション野郎の僕が横を歩くのは、正直気が引ける。
「じゃあ、行こうか、大羽君」
「うん、そうだね」
彼女はそんなこと気にした様子もなく、僕に言った。僕は気にしてるのは俺だけなのか?と思いつつも、その思いを頭のロッカーに入れ、彼女に応えた。
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「うわ~、可愛い女の子がいっぱいだ」
これが私の書店でライトノベルコーナーを見たときの正直な第一印象だ。
そのコーナーにいた、男性客たちが、ビクッと肩を震わせ、一度こちらを見て、気まずそうに本棚に視線を戻していたが、あの発言はまずかったのだろうか、、
「う、うん、、そうだね、、」
大羽君の周りに彼らと同じような黒いオーラが見えた。私は失言してしまったらしい。
「なんか、、ごめん」
「いや、大丈夫、気にしなくて」
「あ、、そう?じゃあ、大羽くんおすすめとかある?」
「えーと、これとかどうかな?」
彼は表紙に二人の美少女が描かれている、一冊を私に差し出た。あらすじは二人のヒロインが一人の主人公を取り合うというものらしい。
大羽君が早口ですごい量の解説をしてくれていたのだが、そのほとんどを聞き逃してしまった。
せっかく説明してくれてたのに聞き逃してしまい、申し訳なくてもう一回説明してもらおうとしたら、彼は気まずそうな表情になり黙り込んでしまった。
このタイトルは結構な巻数が出てるらしく、とりあえず私は2巻までを手に取った。
「なんかほかにはある?」
「うーん、じゃあジャンルを変えてこういうのとかかな」
次のタイトルは一人のヒロインと主人公がお互いの勘違いですれ違い続けるというものらしい。
これは最近始まったばかりで、まだ一巻しか出ていないらしいので、一巻を二冊の上に重ねた。
そして、私がレジへ歩き出した時、
「あ、椿ちゃん、やっほー」
「
彼女は
私が大羽君ならたぶん彼女をヒロインのモデルに選んでいただろう。
「いや~、親に勉強しなさいって言われて、参考書買いに来たんだよね」
彼女は「やれやれ」とでも言いたげな仕草で言った。
「それはあんたがあんな点とるからじゃない?」
そうやって『私』と彼女で話していると、彼女の視線は私の後ろにいる大羽君に向いていった。
「ねぇ、椿ちゃん、後ろにいる男子は誰?なんか見たことある気がするけど、、」
「大羽隼人です、一応、、同じクラスです、、」
そう答えた彼はさっきより暗い空気を纏ってしまった。
「ごめんね、私名前覚えるの苦手で、、」
「あぁ、ダイジョウブデスヨ、、」
彼の目からは光が消えて、今にも空気に溶け出しそうであった。
「大羽君、気を確かにして」
私が彼の肩をたたくと、彼は我に戻ったのか、暗い空気を霧散させた。
「ところで、椿ちゃんと大羽君ってどんな関係なの?」
この質問が放たれたとき、私と大羽君は頭をフル回転させて答えを探す
「たまたま本屋であっただけだよ。」
「でも、椿ちゃん、放課後、大羽君に呼び出されてたよね」
彼女の鋭い指摘に私はどう答えていいのか分からず、口が開かなかった。大羽君も同様だろう。
それを見て何か面白いおもちゃを見つけたかのような目で朱莉は続ける。
「放課後に呼び出しと言ったらやっぱ告白だよね。てことは、二人は付き合ってるの?」
「いやいや、そんなわけ、、、」
「うん、そうだよ、、」
私はなぜかそう答えていた、
それはせっかくできた私の『居場所』を取られたくないという独占欲から出たものなのだろうか、、
「ふーん、じゃあ、私は参考書みてくるから、また明日ね」
「うん、また明日ね」
早々に歩き去っていった彼女の背を眺めながら、私は嘘をついたことへの罪悪感と、この噓がばれたとき、私は嫌われるのではないか、この嘘言によって大羽君に失望されるのではないかという心配感に襲われていた。
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もしや氷柱さん勘違いしてる?
僕は日梅さんを見送った彼女を見ながらそう思わざるおえなかった。
そりゃあ、僕だって一人の男子高校生だ、氷柱さんほどきれいな女性と付き合えたらうれしいのだが、彼女は恋愛感情とかが分からないと言っている、そんな彼女に無理に付き合ってもらうなんてそんなひどいこと僕はしたくない。
たとえ相手の勘違いであっても。
「あの、、大羽君、、ちょっとレジ行ってくるから外で待ってて。」
彼女の表情は明らかに落ち込んでいた。そんなに僕と付き合っていることがバレるのが嫌だったのだろうか
「え、あ、、うん」
僕はどう説明しようか考えながら、店を出た。
――――――――
「大羽君、おまたせ、、」
「いや、全然気にしなくていいよ、それよりどこかで座って話さない?」
彼女はそれを聞いて、頷きながらも少し震えていた。それは何かに怯えるような震え方で。
もちろん僕は怯えさせるようなことはするつもりはないのだが、、、
むしろ、僕が謝らなきゃいけない要件だし、、
僕らはすでに沈んだ太陽の代わりに、たった一つの街灯が全体を照らしている小さな公園のベンチに腰を掛けた。
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