第二話 下校

 彼女のこと何も知らなかったんだな、、


 僕は氷柱さんと二人で放課後の橙色に染まった屋上に座り込んでいた。


 彼女は毎日、どれほど苦労をしてきたか、分かったものではないだろう。

 だけど僕はそんなこと知らずに、ただのスクールカーストトップの陽キャ女子だと思って、あんな無茶振りともいえる頼み事をしてしまった。


 お互いの手を取ってから今までの数分間、僕も彼女も一言も発することがなかった。

 その間、彼女と僕の手はずっとつながっていた。いつもの僕なら心臓の音が大音量で聞こえるほど緊張するところだが、今回に限ってはそうはならなかった。

 いや、緊張していてることに気付けないほどに、彼女の手の冷たさが印象に残った。

 僕が少し手を動かすと、彼女はパッと手を放し、少し気まずそうにしながら、口を開き、謝ってきた。


「ごめんね、急に泣いちゃって、びっくりしたでしょ、、あと、、こんなつめたいてで、、」


「手の方は、少し心配になったぐらいで。あと、こっちこそごめん、氷柱さんのこと何も知らないくせに、あんなこと頼んじゃって。」


「気にしなくていいよ、、、私が隠してただけだから。それより、ほんとうに、、私でいいん、、だよね、、?」


 彼女はものすごく申し訳なさそうな口調で、それでいて縋りつくような、一人にしないでと語りかけるような声色で僕に問いかける。

 

 なぜこんな僕に縋りつくような声でそんなことを聞くのか、なぜ彼女がそんなに申し訳なさそうな口調なのか分からなかったが、僕ははっきりと強く肯定するように答えた。何故かそうしないといけない気がしたから。


「うん、こっちから頼んでおいて、君じゃダメっていう要素ある?」


「でも私、恋も愛も分からない人間だよ。ちっとも参考にならないと思うんだけど、、」


「大丈夫だよ。それに、僕も氷柱さんの助けになれるよう頑張るから。こっちだけ手伝ってもらってたら不平等だしね。」


「そっか、、、それでお互い様、、、だね、大羽君には私の気が済むまで付き合ってもらうからね、、、」


 彼女はぎこちない笑みを作り、小指を差し出して、冗談を言うかのような声色で僕とそう約束した。しかし、これが冗談ではないと少し暖かくなった小指が伝えてくれた。

 彼女の目には先程の残りだろうか、沈みかけの太陽の色を詰め込んだ光の粒が一粒、輝いていた。


 僕の心拍数は過去最高値を叩き出していたが、そんなこと気にならないほど、彼女に見惚れていた。


 ―――――――――――――


 下校の校内放送が流れるなか、私と大羽の二人で校門を目指して歩く。

 大羽と居る時は『私』を演じなくていい、他人に合わせなくていい、その事実が私の今まで一人で抱えていたものを軽くしてくれた。


 校門を抜け数分間、お互いに今日初めて喋った相手ということを遅れて自覚していて、何を話すべきか分からず、静かに時間だけが過ぎていた。


彼がこの空気に耐えれなくなったのか口を開いた


「そういえば、氷柱さんってラノベなんか読んでんの?」


 えーっと、ラノベ、、ライトノベルのことか

 あれ?私ラノベ最後に読んだのいつだっけ、中学2年ごろだったっけ。

 あの時は友達に借りたから今は持ってないし、あの時の話題として読んでいただけだから内容はほとんど覚えてない。

 彼にそう答えると、彼は何かを察したようで納得してくれていた。

 私はラノベの特に彼の書こうとしているラブコメがどんな感じのものが、しっかり読んでみたくなっていたので


「あの、、大羽君?ちょっと本屋ついてきてくれない?」


「え、本屋逆だけど大丈夫?僕も家こっちだけどこっちには無いよ?」


「あ、そっか、、」


 私たちはもう私の家の近くまで来ていたようだ、ここから少し歩いたところに彼の家もあるらしい。


また今度にしようかという空気感になっていたのだが、今日行かなければもう行こうと思うことがなくなりそうだったので


「じゃあ、一回に帰ってから着替えて行こ」


「え?大丈夫?もう6時過ぎて、そろそろ日が沈みそうだけど、、」


 彼は親が帰ってくることを心配してくれているのだろうか


「大丈夫、親はかえってくんの遅いから。」


「そういう事じゃないんだけどなぁ、、」


彼は何か言っていたが私は聞き取れなかった、その間に家の前についていた


「あ、私家ここだから、あとで迎えに来てね」


「あ、うん」


=========


 え、こういう時何着たらいいんだろう。

 僕は自分のクローゼットに籠って5分が経過しようとしていた。


 僕の人生(16年間)の間、女子と一緒に出掛けたことなど小学生を最後に一切ないし、そもそも女子と事務以外の会話したのは高校に入ってから初めてだ。

 とりあえず、僕は無難な白のシャツに紺色のデニムを身にまとい。家を出た。


 数分もたたぬうちに彼女の家の前についた。

 チャイムを押して彼女を呼び出そうと思ったのだが、手がチャイムの方へ伸びてくれない、近づけると心臓の音がバクバクと聞こえてくる。

 なぜチャイムを押すだけなのに、こんな緊張するんだろう、さっきまで一緒に話をしていたのに、、

 やっぱり女子の家のチャイムを押すのは緊張するものなんだな、こういうのもラブコメを書く時のいい参考になるな。

 

 俺は二分ほどかけ、自分の中で心を決めて、チャイムを押した。








 


 

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る