第一話 関係の始まり

「僕に付き合ってください!」


 私は手に持ったオレンジジュースが同化しそうな夕暮れの空と、緑色のフェンスを背景に、ガチガチに緊張している男子、大羽隼斗と向かい合っていた。


 私は自分で言うのも何だが、結構な回数告白されてきた。

 しかし、私と付き合ったって面白いことなどないし、まずこちら側から恋情を抱くことなどないのだから、相手のためにもすべて断ってきた。

 今回もいつも通り屋上に呼び出され、いつも通り告白され、いつも通り無難にあしらうつもりだった。

 しかし、今回の告白は何かいつもと違う感じがした。


「え、、ん?もう一回言ってくれ」


「え、あ、、僕付き合ってください」


 彼はさっきと同じトーンで言う


 やっぱり、聞き間違いじゃないよな、、


 彼は明らかに『に』と言っている、私は彼のの意図を探るため、彼に言葉を返した。


「どういうことだ?私に何をさせるつもりなんだ?」


 私は彼に一片の興味を抱いた。


 ============


 僕は某小説投稿サイトで小説を書いている、小説家志望の高校二年生だ。

 まぁ、今のところ底辺のほうにいるわけなのだが、、、


 いつの日だったか、SNSを徘徊していると、

『作家は経験したことしか書けない』というハッシュタグを見つけた。

 初めて見たときは、『そんなわけない』と思っていたのだが、自分の小説に対する評価や意見などを見ると、『もしかして、、』と思うようになってしまった。


 一度そう考えてしまうと全てをそう感じてしまうわけで、最終的に僕はクラスの一軍にいて、僕の書きたい理想のヒロイン像にピッタリな女子、氷柱つらら椿つばきさんに、ラブコメを書く手伝いをしてほしいと頼み込むことにした。


 具体的には、ちょっと外出して、それをデートの参考にしたり、いろいろと意見を聞いたりするつもりだ。


 そして今日、彼女に頼むと心に決めたのだが、どうしていいのか分からず、屋上へ呼び出し、そこで手伝ってほしい旨を伝えるという予定を立てたのだが、なぜか緊張して愛の告白のような言い方になってしまった。

 彼女も何かを感じ取ったのか、僕に何と言ったか確かめる。僕はさっき言った言葉をリピートする、すると彼女はこれが告白ではないと理解したようで


「どういうことだ?私に何をさせるつもりなんだ?」


 そう問いかけてきた。


 僕は理由と要件を彼女にはっきりと伝えた、その間彼女の表情は暗くなっていく一方だった。


 ==========


「すまない、私にはできない。」


 私なんかじゃヒロインのモデルなんて務まらない

 そもそも、他人のことを好きになれない、愛することのできない私が、そんなことできるわけがない。


 ただ、彼が自身の夢を話しているときの彼の言葉は、とても眩しかった。

 彼は私にはないものを持っている、私にはない輝きを持っている。

 だからこそ、私みたいなどうしようもない薄情者かつ、臆病者と一緒に居てはダメな気がした、一緒に居たら彼の輝きも私がすべてかき消してしまう。


「やっぱり無理か、、、」


 彼は結果が分かっていたかのような声色で夕焼け空へ呟いた。


「でも、これも経験として頑張ってみるよ、、、」


 そう言った彼の声からは輝きが消えていた。


 その声を聞いた私は何を思ったか、自分がどういう人間かを独り言のように自虐していた。


「……そんなかんじで、私は薄情で、臆病で、孤独が怖い、どうしようもない人間なんだよ。だから、お前は私と一緒に居てはいけないと思う、、、いや、一緒に居たらダメだ。」


 彼は上辺うわべだけの薄っぺらい言葉で私を慰めることもなく、私の話を人ごとにするわけでもなく、ただ真剣にの話を聞いてくれていた。

 それが私にとって最も優しい対応だった。


「そう、、なんだ、、」


 私がすべて吐き出しきると、彼はただこの一言を発して、下を向いていた。


 それから五分ぐらいたっただろうか、彼はすぅと頭を前に戻し、輝きと優しさに満ち溢れた声で、はっきりと、私の方を向いて、そう言ってくれた

「僕はやっぱり、いや、むしろ話を聞いたからこそ、氷柱さんをモデルにしたラブコメが書きたい。

 それで、自分がどう感じているか、感情を取り戻す、、、いや、なんかちがうなぁ、、、ともかくいろんなことをしよう、そうしたら何か変わるかも」


 私はほぼ初対面の彼にすべてを認められた気がした、心の奥の方で何か湧き上がるようなものがあった。懐かしいような、温かいようなものが。


 彼なら『私』を演じる必要はなく、のままで彼と接することができる。

 何かがきっかけでうれしさや悲しさを感じて、取り戻すことができるかもしれない。

 彼と一緒に居ることに対する負の感情はもう消えてなくなり、彼と一緒に居ようと思えるようになった。

 だから、彼の目を見てしっかり返事をしようと思ったのだが、なぜか視界がぼやける。


「、、あれ?なんで、、だろう、、おおば、、くんが、、ぼやけて、、みえる」


「大丈夫?氷柱さん、ないてるよ?」


 彼はそう言いながら私の手に彼のハンカチをおいてくれた。


 泣いたのなんて何年ぶりだろう、私は泣くことができたらしい。

 これも彼のおかげだろうか、、、


「氷柱さん、ごめんね、迷惑かけて、この話は忘れてもらっていいから」


 彼は続けてそういった。その声色には申し訳なさにあふれていた。彼はあきらめようとしているのだろう。


「そんなこと、、ないよ、、、私も、、おおばくん、、と、、一緒に、、いたい。」


 私はやっとを認めてくれる人ができたという安心感。その人を手放したくない、もう一人になりたくないという気持ちで、立ち上がろうとしていた大羽君の手をつかんだ。

 

 彼は一瞬呆気にとられたような表情をしたが、すぐに優しく手を握り返してくれた。

 彼の手は、私のとは違ってとても暖かくて、あの厚い氷が少し溶けだしたような気がした。

 彼と一緒に居れば、本当に何かが変わっていくかもしれない。


「よろしくね、大羽君」


「よろしく、、、氷柱さん」


 その時から私たちの不思議な関係は始まった。









 






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