現実はラブコメより甘酸っぱい

薄明 黎

プロローグ 私の日常

 あぁ、やっぱり疲れるな、、

 そう思いながら今日も一人、歩きなれた道を重い足を隠した足取りで歩く。


 いつからだったか、私は喜びや悲しみ、楽しいという感情を感じれなくなっている。その感情に触れようとしても、厚い氷に阻まれていてしまう。


 だからだろうか、友達が楽しい、うれしい、悲しいなど、いろいろと感じているときでも、共感ができない。中学の卒業式でも皆が泣いている中、私は何とも思っておらず、ただ空気に合わせるためにだけみんなの真似をしていた。


 高校に入ってからも変わることはなく、ただ自分が薄情な人間だと気づかれぬため、場の雰囲気を壊さぬため、私は他人の表情に合わせてきた。


 そうして過ごしてきた毎日はやはり疲れる。


 いっそのこと全員から嫌われてやろうか、それとも引きこもってみんなとの関りを断ってしまおうかなどと考えたのだが、結局嫌われたり、関係を断たれてしまうのが怖くて仕方なかった。

 私は喜びや悲しいという感情は薄いくせに、嫌われたり、一人になることに対して誰よりも敏感で、誰よりもそれを恐れているのだ。


 イヤホンから流れる曲が二曲目のラストに差し掛かったとき、私は家の鍵を開けた。

 薄暗い廊下に生まれては消えたドアを開ける音色、私は電気すら点けずに自分の部屋になだれ込む、机と向かいあうこと数十分間。私は課題を終わらせ、一度はずしたイヤホンをもう一度つける。

 私は音楽を耳栓代わりにして一人ベッドに潜り込んだ。


 ―――――――――


『トントントン』


 キッチンの方から聞き心地のいいリズムを包丁が奏でている。イヤホンが片方枕の上に転がっていた。

 しまった、つい寝落ちしてしまった。時針じしんはすでに{9}を過ぎていた。

 慌てて自分の部屋を出て居間への扉を開けると、母が狭めのキッチンに立ってエプロンをしていた

「ただいま、今日は疲れていたみたいね」

 母は優しい声で私に声をかけた、食事の用意は私の役目なのに私が寝ていたせいで母にやらせてしまっていた。

「ごめんお母さん、あとは私がやるから休んどいて」

 私は自分のすべきことを母にやらせてしまったという罪悪感におおわれていた

「いいのよ、いつもやってもらってるから。今日ぐらいはお母さんらしい事させて」

 母は変わらず優しい口調で行ってくれる、その声には申し訳なさも混ざっていた。

「そんな、、べつに、、」

 私はなんて言っていいのか分からず言葉に詰まってしまった。

 私の家庭はいわゆる母子家庭というやつだ、母は朝早くから働きに出て、夜帰ってくる時間はいつも9時を過ぎている。だから基本、家事は私がやることになっている。


 今日は母の言葉に甘えることにした。


 ―――――――――――


 今日も『私』を演じる一日が始まった。


 誰もいない教室で一人文庫本を読む、十分ほどするとゾロゾロとクラスメートが入ってくる。私は文庫本をカバンにしまい、みんなからのあいさつに応える。

 そうしてクラスメートの大部分がすでに登校を終えて、周りも騒がしくなり、私の周りにも友達が集まって「昨日のドラマがどうだった」「彼氏とデートした」だとかの話が繰り広げられていた。

 私もついていけるように話に混ざっていたのだが、疲れを感じ

「ちょっと、手洗ってくる」

 と言い残し教室を出た。

 私が教室を出ると一人の明らかに陰キャで暗そうな男子が声をかけてきた

「あの、、今日の放課後、話したいことがある、、ので屋上に来てくれませんか、、」

 私は『またか、めんどくさいな』と感じ、断ろうとしたのだが、こういうやつから、誘われたのは初めてだったので本当に何か違う要件があるのではと思い、とりあえず、誘われるがまま行ってみることにした。

 まぁ、断り文句はいろいろと持っているからな、、









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