第5話:私を愛した怪盗 (The Thief Who Loved Me)・囚われのヒーロー02
カムイの虚しい叫びから程なくして真っ白い部屋に色が宿った。というより、『白塗りモードが解除された』風に見えた。張り巡らされているパイプや時計などと言った本来の部屋の形らしき風景が表れたからである。カムイはそれを今まで尋問の際に幾度となく見てきているので、驚きもせず床に大の字で寝転んだままにリラックスな体勢を貫いていた。
何のことはない、これは拷問担当が尋問しに来るときの仕様だった。捕虜や囚人の人権を軽んじているこの諜報機関のやり口である。ここに囚われている者たちには反抗的な意志を削いで自白を促すために常時白塗りモードがつけられている真っ白い部屋で過ごしてもらうことになっている。ただし、尋問が始まると、拷問担当の精神衛生に配慮し、普通の風景に戻るのだった。
「――やっと、喋る気になったらしいな?カムイくん」
今にも取れそうでところどころデコボコになっている鉄製のドアが開かれ、そこから拷問担当が姿を現す。嫌味を吐くことには誰にも負けないと密かに自負している拷問担当はカムイのことを『君』付けで呼ぶことにより、機先を制したつもりだった。
「君付けとは笑わせてくれる。俺はこの世界の誰よりも年上だぜ?」
「貴様、カムイ!!減らず口をたたくな!!本来なら政治犯は問答無用でリンチにしても罪には問われないんだ……貴様が今まで生きながらえているのは、あくまでも元老院の方々の意向によるものだ。すなわち、ワシに向かって口答えすることは、元老院への敵対行為とみなされるぞ!!」
「支離滅裂な論理だね。まぁいい。あんたと喧嘩していても始まらねえ……何が聞きたい?何でも話してやるよ。全面協力だ」
改めての全面協力宣言。それは紛うこと無きカムイの本心だった。
(デマ掴ませるだけ掴ませて、逆に新情報むしり取ってアバヨしてやるぜ)
いささか問題のある本心だったが。とは言え、今までとは打って変わって積極的に尋問に応じるという態度から来る期待感……諜報機関と拷問担当が油断するにはそれはあまりにも十分な材料だった。彼がいまから喋ること全ては、ほぼ信用される。アドバンテージは完全にカムイ側にあるのだ。それを見越してこその全面協力宣言……のはずだった……
「バカめ!!残念だったな?貴様が口を割ると宣言させるところまでがワシの仕事だったのだ。今回の拷問担当はワシじゃない。あの『拷問死神』が直々貴様を拷問地獄へと誘う。貴様は10分もしないうちに、早く殺してくれと泣き叫ぶことになるぞ――???グヘヘヘへ!!!」
まさか機関も自分と同じ手を使っていたとは夢にも思わなかったカムイは絶句のあまり、思考が麻痺してただただ固まるしかなくなった。満面の笑みでそれを見届けた『元』拷問担当は死神の拷問ショーが楽しみで仕方が無いのか、鼻歌まじりに部屋を出ていくのであった。
スターケスト・シンドローム:感覚世界 麻宮スイメイ @Suimei_ASAMIYA
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