渇きの夢
武江成緒
渇きの夢
夕暮れのように、空は暗い。
ついさっきまで、青い
いまは汚血のような赤黒い空が、不気味に脈動しているだけだ。
赤黒い、その根源は空にはない。
目の前にのびる地平にある。
暗雲が、大地のうえに降りたかのように、赤みをおびたどす黒いものが地平線に
――― 砂嵐だ。
戦はじめの
長い
こんな声をしていただろうか。そんな疑問が湧きだしながらも、喉を締めるがごとき苦しさに、
―――
これは尋常の嵐ではない。
吹きつける
いま目の前に迫りきた砂塵の渦は、その歩み。
砂漠の王が、この大地を、すべての
パズズ、セト、モート、アザゼル、あるいは
その版図に、
いつの間にか、この全身が赤い砂の渦にのまれ、風と砂にむさぼられている。
鼻を
あまりの苦痛と恐怖とに、ひとりでに喉が悲鳴をあげる。
開いた口に、砂漠の王はただ一ひらの容赦も見せず、その腕を叩きこんでくる。
砂塵に喉を犯されて、
またもあの、
すでに
そこへまた、砂塵の殴打が正面から叩きつけられ、
頸のなかで、何かが千切れた。
飛び起きる。
ひりついた
帰り着くなり椅子にもたれて、すぐに寝入ってしまったようだ。
それにしてもどうしたのだろう。悪夢のなかで体験したそのままに、喉はからからに乾いて、何かが首を絞めつけている。
喉に手をやり、
黄色がかった褐色をした細長い布が、皺くちゃになってだらんと垂れる。
先日、外国から戻った同僚からの土産の品だ。
ネクタイに織りこまれた駱駝の記憶が、あんな悪夢を見せたとでもいうのだろうか。
ふと、胸の奥が痛くなる。喉に不快なざらつきが走る。
それは血の赤と
渇きの夢 武江成緒 @kamorun2018
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