第3話(最終話)

「眠れない?」

「うん。今日の朝になったら退院する。でもここの看護士さんたち、みんな優しくて帰るのが寂しい」

「いつも話しかけてくれていたもんね。来月から学校だよね?バスケもできるし楽しみがたくさんあるよ」

「退院したら会えなくなる。私のことも忘れてしまうのかもしれない……」

「そんなことないよ。みんな君を応援している。それに友達だって待っているんだから、心配しなくても大丈夫」

「本当に?」

「ああ。たくさん耐えてきた分これからたくさんやりたいこともできてくるよ」

「私のしたい事かぁ……」

「あまり考えずに体を休ませて。……また朝に会おう。みんなで見送りますから」


灯りを消し少女の表情が穏やかになり目を瞑ったところでカーテンを閉め病室から出た。三〇五号室の翔くんも今日は落ち着いている様子だった。


七時五十分。日勤の看護士が次々とスタッフステーションに挨拶をして入ったきた。サラの姿も見つけて僕はいつになく胸の鼓動が早く打つのを感じ取っていながら、引き継ぎの確認を行うと、少女の母親が予定より早く待合室に待機していたので声をかけた。

モモンガの看護士が病室に案内して彼女の元に行き支度が整うとステーションに来たので、看護士たちは廊下に整列した。


「退院おめでとうございます。これ、私達で作った折り紙と手紙。よかったら読んでください」

「娘のために最後までお気遣いいただいてありがとうございました」

「皆さん、ありがとうございます」

「元気でね」

「はい」


親子二人がエレベーターへ向かおうとした時に少女が僕の元に来てあることを告げてきた。


「私……将来看護士になる。できたらここの病院がいい。絶対勉強頑張るから、一緒に働きたいです」

「わかりましたよ。みんなで待ってます。友達にもよろしく伝えておいてね」

「はい!」


皆で見送るなか彼女は笑顔で手を振り病院をあとにした。上階の職員用の更衣室に向かう用意をしていると、サラが僕に近寄ってきた。先日の告白の返事を聞かせてほしいと言ってきたので、処置室の隣側の壁伝いに連れてきて話をした。


「この間の返事なんだけど、やっぱりお断りさせていただきます」

「そう。やっぱりダメか……」

「ダメじゃないんだ」

「どういう意味?」

「サラさん。あなたがここで一番何がしていきたいですか?」

「それは、職務にまっとうすることよ」

「そうだ。僕らはまだまだここでは新米のような立場だ。だからまずは患者や業務全般のことを一所懸命にこなしていくことが大事だよ」

「ふふっ。皆元さん本当真面目なんだから。もちろんよ、わかっている。私も立派な看護士になるわよ」

「僕も頑張る。サラさんにもいつも助けられている。だからその分みんなでこの病院を支えていきましょう。じゃあ僕はこれで上がります。お疲れさまです」

「皆元さん」

「はい?」

「私もあなたに負けないくらい格好良い看護士になるから、よく見ていてくださいね」

「ああ。今日も忙しくなるよ。」

「ええ。帰り道気をつけてくださいね。お疲れさまです」


僕らもお互いに手を振り合ってそれぞれの持ち場に行った。

その後、僕の公休の間に翔くんの両親が病院を訪れて彼に面会をし三人が話し合いをした結果、母親とともに実家で暮らすことになり、この街から離れるので、移転先の病院に必要になる紹介状を作成してほしいという手続きをすることになった。

主治医からも病状が安定しているので自宅療養をしてもよいと許可を得て退院する日が早まったという。

一週間後、翔くんはいつもの明るい眼差しではしゃぎながら看護士と雑談を交わし、皆に見守られながら退院していった。


今日も院内はたくさんの患者で溢れている。

夜間になると動物の医師や看護士たちも懸命に任務にあたっていく。僕たちはいつでも地域社会に寄り添えるように人間と動物の共存性を保ちながらこの地で豊かな基盤づくりを目指すよう、ともに過ごしていくのである。


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奇々快々~夜行性動物看護士たちの日常~ 桑鶴七緒 @hyesu

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