桜花爛漫
藤泉都理
桜花爛漫
一年に一日。
たった一日だけだ。
咲き乱れる満開の桜を目にできるのは。
どうして。
偶然桜の傍に根を下ろして芝桜が疑問を投げかければ答えてくれた。
約束を交わしたから。
たった一日だけ。
あの方を休ませる為にこの身を乱して何ものも、悪夢さえも近づけないようにするのだ。
あなたが最後の一人ですね。
偶然立ち寄った武器屋で話しかけられた。
芝桜の妖精と名乗る少年に。
一族を継承した証であり、ただ一人しか名乗ることを許されない名前を呼ばれて言われたのだ。
桜の名代として迎えに来ました。
約束を交わしたんだ。
桜は言った。
どちらが先に言葉を溢したのかは、わからない。
休みたいと言ったのか。
休んでほしいと言ったのか。
けれど確かに言って、確かに聞き届けた。
桜は足を止めずに戦い続けるあの方を休ませた。
あの方は桜に守られて一時の休息を得た。
ずっとずっとずっと。
そして去り際に背を向けたあの方は一度だけ横顔を見せて言った。
必ず。
願わくは私の終わりの刻を見届けてほしい。
あの方は動植物の違法取引者を狩る者。
桜もあの方に守られたのだ。
「申し訳ない。私は見届けられなかったな」
「いや。私は、私たちはあなたに感謝をしている。とても。焦燥も憤怒も慟哭もあなたの身の内に守られている時だけは忘れられた。心の底から休めた」
「たった一日だけなのにか?」
「ああ」
「終わりの時に立ち会えなかったのにか?」
「ああ。最後の一人になってしまったな。あなたに守られる最後の一人に」
桜の根元に腰を下ろしていたあの方は立ち上がると、桜を抱きしめて、言ったのだ。
ありがとう。
守ってくれて。
すまなかった。
違法取引者がいなくなった世界を見せられなくて。
桜は咲き乱れて、あの方を守った。守って、眠りに就いた。
もうあの方を守れなくなった。
けれど桜の想いを受け継いだ芝桜があの方と約束を交わして、そして。
見たと言う。
一時だったとしても。
桜花爛漫 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます