卒業式の夜の匂いがする、ぼくにはわかる寂しい香り

知らないところで、必要な人に必要な声が届き、お陰様お互い様で救われていく世の中であってほしいと思わせてくれる作品。

読者に考えさせるような書き出しがいい。
「卒業式の夜のにおい」とはなんだろうと、興味を惹かれる。
なにを食べたかより、卒業という区切りを迎えたことに重きを感じるので、別れの寂しさやこれからの不安や期待の混ざった感覚に読者は包まれるかもしれない。
そこに「あぁ、そうだ。彼からは少し寂しいにおいがした」と続くことで、彼の匂いを、読者にも想像しやすくしている。
このあたりの書き方は上手い。

主人公と凪世はよく似ている。
むしろ対になっている感じがして、主人公のような、少しひねくれたところが凪世にもあったのかもしれない。

大人になってからと、子供のときの「五つ年上」の感覚はちがう。
十代のときはすごく大人に見える。
大人から五つ年下を見ると、つい最近と思えて親近感が湧くし、可愛くも見える。凪世は主人公に懐かしさを感じて、一緒に食事をしたのかもしれない。

「彼はきっと心より先に体が動くタイプだな。僕には持っていないものを持っていて心から惹かれる」と彼を見ている。
けれども、彼を食事に誘い、店の中で歌い、励まし、スマホで東京行きの最終新幹線の時刻を調べて教え、送り出す主人公は、あきらかに思うより先に行動している。
本人が気づいていないだけで主人公も、先に体が動くタイプだと思う。