“今”しか見えていなかったけど

CHOPI

“今”しか見えていなかったけど

 今までそれなりに、充実した生活を送ってきた。平日は大好きな仕事を頑張って、休日は彼氏と一緒に過ごしたり、自身の趣味に費やしたりして。もちろん大好きな仕事って言ったって、不満の1つや2つ溜まるけれど、それを含めて『大好き』だと言い切れる仕事(いわゆる『天職』ってやつなんだと思う)に出会った私は、程よく彼氏に愚痴を吐いて、程よく趣味で発散して。だから生活全体が充実していた。


 彼氏がいるからか、周りから『結婚は?』なんて聞かれたりもするけれど。……だけど、正直『絶対結婚したい』って気持ちでも無くて。どちらかと言えばタイミングが合えばしたいかな、くらい。今の彼とそんな話が出れば理想。でも出なくても別に良い。なんせ先ほどの繰り返しになるけれど、プライベートも今、本当に充実しているから。


 まぁ、そのうち。なんとなく、時が来たら


 そんな感じで日々を過ごしてた。だけどある日。『なんとなく、時が来たら』の『時』は急に来た。


 ******


「あのさ、話があるんだけど」

 急にまじめなトーンで、彼氏がいきなり話し始めた。

「え、何いきなり。怖い、何」

「いや、その、さ」


 ――結婚とか、どう考えてる?


 その言葉に一瞬時が止まった。


 ……、え?


「え、え?」

「えっと、だから。結婚、とか。今までそういう2人のこれからのこと、話したこと無かったなって」

「え、急だね?」

「いや、いつ言っても急なのは変わらないかと思って」

「……それもそうか……?」

「たぶん」


 なんか上手いこと丸め込まれた気もしつつ、『で? なんか考えてる?』と聞かれてちょっと考える。だけど、下手に見繕って嘘をつくほどの初々しい関係性でも、最早ない。


「なんていうか、タイミングとか。その時がきたら、くらいに考えてた」

「……そういう感じ?」

「うん……。別に私、結婚に対して焦ってるわけじゃないし。いや、したくないわけじゃないんだよ? でも、なんか今のままで、もう十分に幸せだし、だからなんか。具体的に次、どうしたいっていうかよりか、今が続いて欲しい、みたいな……」

「なるほど」

「うん」

 自分の考えを隠さず伝えたら、彼は私から視線を逸らして思考を巡らせているようだった。そうして少しの時間、視線の合わない時間が合って、それからもう一度、2人の視線が合う。


「……俺はさ。今、この幸せな状況がずっと続いていくのも良いんだけど……」




 ――……例えばこの先、どちらか片方にしんどいことが起きた時も、これ以上ないってくらい幸せなことが起こった時も、それを分けて一緒に体感していけたらなって思ってて。そういうの、イヤ、かな?




 彼のその言葉を聞いて、なんでかはわからないけれど。初めてそこで2人のその先についてのビジョンがほんの少しだけ、見えた気がした。これからもまだ続く、人生っていう長い旅。……その旅を、彼と一緒にすることができるとしたら。大変なことだって、もちろんあるに決まっているけれど、それでも、それ以上に。


 なんて、なんて素敵なことなんだろう


「……あの。えっと」

 伝えなくちゃ、そう思った。今、この瞬間。あなたと“今”だけじゃなく“これからも”一緒にいられたら、と思ったことを。


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