一途であることは、それだけで誰かの胸をうつ

古代中国の斉に『崔杼弑其君』(崔杼、其の君を弑す)という有名な逸話があり、これは中華世界における史官の覚悟のほどについての逸話なのですが、本作に登場するヒロインはまさに「そういう覚悟をもって記録を記そうとする」人物。

そう、正しい記録を記すためには、死をも辞さない。

当初は奇矯で過激な振る舞いに見える彼女の姿勢ですが、物語が進むにつれ、彼女がなぜそう思い詰めるに至ったか、記録係とはそうあるべきだという覚悟に至ったかが、明らかになってゆきます。

そこまでくると、読者はもはや彼女とともに、彼女とおなじまなざしで、真実を探さずにはいられない。
ほかの登場人物たちが示す、「妥当に見える落とし所」、「高度な政治的決着」など二の次になってくる。

彼女のまなざしによって明らかになる真実。
その哀しい業を彼女がどう「正しく」記すか……彼女の一途で真摯な姿勢を矯めることなく、けれども政治的にもほどの良いところに落としていこうとする男性ふたりは、彼女の良いサポート役と言えるでしょう。

いや、約一名、サポート役などというと機嫌を悪くしそうな方もいらっしゃいますが。
しかし、彼らが彼女の正しさを撓めず、押さえ込むことなく(そちらのほうが手っ取り早いにもかかわらず)より難しい政治的な決着を選ぶのは、やはり彼女の一途な姿勢に呑まれ、こころを震わされたからに違いない……

今回の事件は落着しておりますが、続きを予感させる終わり方。
彼らの今後が楽しみな作品

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