第2話
手錠までさせて隊員に連れて行かれた保安隊本部は、国の貧しさと矛盾するような、頑丈で立派な建物だった。首が痛くなるほど上を向かなければ最上階が見えない建物は、始めて目にした。その中に入ると、俺は一番手前の部屋に通された。
ドアの向こうにあったのは、白いすだれ。
そして、その奥には、椅子に座る、黒い人影が見えた。おそらく、保安隊の隊長だろう。
「隊長。例の男を連れてきました。」
「そうかい。ご苦労さま。君が、日原佐助クンだね?」
隊長は、淡白な様子で俺に話しかけた。俺は、そんなあっさりした調子で、母ちゃんの死があしらわれたように感じて、不快感が募るのを感じた。
「...。」
「母親のことがショックで口を利きたくないのかな?」
クソっ!見通してるなら安々と喋るなよ!
「ああそうさ!母ちゃんは何も悪くないのに、お前らに殺されたんだ!」
俺は感情のままに、荒立った声で怒鳴り返した。
「おいお前!隊長に向かって口の聞き方なってないぞ!」
すると、俺を連行してきた隊員が、俺たちのやり取りに口を挟む。
「まあそのくらいにしなさい。そうだね。確かに気の毒なことをした。でも、その責任を私達だけのものにしないでほしい。」
「この期に及んで弁解でもするつもりなのかよ?!」
「君は異能のことは知ってるかい?」
急に話題を変えた隊長の言葉に、俺は若干面食らった。
「...んなもの今日初めて目にしたよ!」
「異能とは、特定の人に宿る、特別で超人的な力だ。そして、それは現在のところわが国でしか確認されていない。」
「!」
この国にしか存在しない?!そんなことがあり得るのか?
「異能者が確認され始めたのは、我が国が戦争で敗北し、この島を残してほかの領土をすべて失ったあとから。はじめは、その力は脅威だった。生身の人間を誰でも殺せるような力だったからだ。人々が恐怖に怯えていては、治安が悪化する一方だ。国は、異能者を死刑台に送ることしかできなかった。」
「な、、、!」
「けれど、流石にそれはあんまりだということで、異能者を兵力として利用することを思いついた。だが、これもすぐにうまくはいかなかったんだ。国家に歯向かった隊員もいたし、異能を笠に着て国民の金品を奪い取る者も現れた。そこで苦肉の策で考えられたのが今の仕組みだ。君、日原クンにアレを取り付けてくれ。」
「はい!」
取り付ける?何を?
俺が頭にハテナを浮かべている間に、隊員は、カチャカチャと俺の首に、何か重い塊のようなものを取り付けた。
俺からは、首についたものが何かが目視できない。
「何なんだよ、これは...。」
俺は、恐る恐る尋ねてみる。
「それは、隊員の異能者達の反逆を防止するために編み出された首輪爆弾だよ。」
「ば、バクダン、?」
「そう。兵団は、国民の信頼を得ることができて初めて真の機能を果たす。だから、国民の信頼を得られるように、異能者たちが少しでも法に違反したり、兵団の方針に反する動きをすれば、、バーンッ!」
「!」
「君達の首が吹っ飛ぶことになる仕組みだ。」
「ギャァァァっ!!無理無理無理無理ィ!!」
なんて仕組みだよ!じゃあ、異能者たちは、国に飼い殺されてるっていうことかよ!
冗談じゃない!いつ爆発するかもわからないモンを一生首につけたままだって?!
俺のハートが持たないィ!!俺、ストレス死する!絶対ストレスでぽっくり逝くゥ!!
「俺、メンタル弱いのっ!ほんっとに無理だから!すぐ死ぬ!俺、すぐ死ぬぅぅ!」
「おっと。言動には注意したほうがいいよ。私はいつでも君の首を吹き飛ばす準備ができているからね。」
「なっ!?」
「安心しなさい。上の命令に忠実に従いさえすれば、爆破するなんて真似はしないから。」
そんな言葉、母ちゃんを理不尽に殺されたあとで信じれるかっつー話だろ!
「君は、この国が平和になるには何が必要だと思う?」
「ハァ?知らねぇよ、んなもん。俺は馬鹿なんだ。政治とか経済とか分からねぇ。」
「単純な話さ。異能者が反逆したり、その力を笠に着て犯罪を犯したり、異能者以外にも、この国で犯罪が絶えず治安が悪化するばかりなのはなぜか?」
「...?」
「貧しいからさ。」
「貧しい?」
「君は戦後しか知らないからわからないかもしれないけれど、我が国は、本来資源もそれなりに豊かで、食料も十分あった。人々は自分たちの暮らしに満足していたから、犯罪もほぼない平和な国だと世界的にも有名だった。」
毎日ひもじいのが当たり前の今と比較すると、想像もつかない話だな。
隊長は更に続けた。
「けれど、戦争で敗北したことで、我が国は、大きく5つあった島のうち、最も小さいこの島を残して、他は、すべて戦勝国に分け与えられてしまった。すべての人口がこの狭い島に密集することになったから、食糧不足は日常茶飯事。家を立てるにも畑を耕すにも場所が足りない。貿易をするにしても、売るものがない。だから、国民は明日を生きるためにやむを得ず犯罪に手を染めるんだ。口減らしのための殺人もしょっちゅうだった。そんなこんなで人口は5分の4にまで減ったさ。だから、そんな情勢の中、異能を持つことができたとしたら、悪い方向にその力を使ってしまうのは必然なんだよ。そして、異能者を厳しく取り締まらなければ、この国は、争いが耐えず、自滅してしまう。君の母親を殺さざる負えなかったのも、他の国民に異能者を匿うことはできないと、知らしめるためだった。そうしなければ、言い訳して匿えば刑に処されないとして、異能者を隠す人が増えてしまうからね。」
「...俺達をそこまで服従させて、何に使う気だよ?」
「今のところはこの国の犯罪の取り締まりさ。治安を戻すには、今の状況では異能で無理やり悪事を規制するしかない。けれど、さっきも話したように、これは我が国の問題の根本的解決には繋がらない。今、平和のために必要なのは富だ。その富を取り戻すために、まずは失った領土の奪還をそう遠くない未来に、頼むことになるだろう。」
「...戦争を再び起こすっていうのか?」
「まあ、今日はこの辺までにしよう。学校に行けば、このあたりの勉強もするからね。」
「学校?」
「あれ?言ってなかったかな?異能者は全員保安隊に入団してもらうことになるのだけど、高校卒業する歳以下の者は、保安隊付属高校・中学・小学校に通ってもらうんだ。君の歳だと高校だね。そして、最後にもう一つ、いいものを見せてあげるよ。」
「なんですか。」
「ちょっと、そこの隊員、こっちに来てくれ。」
「はい!」
隊長は、俺を連行してきた隊員を呼び寄せた。
隊員は、キビキビとすだれの前まで歩いていった。
「日原クン。君の母親はこの隊員に殺されたよね?」
「...そうだよ。思い出すだけで吐きそうだ。」
「確かに、あの状況では殺すという選択肢がさっき言った通り間違っていたとは一概には言えない。けれど、日原クンの異能は突然発現したと言っていた。その言い分に耳を一切傾けず、無防備な国民に向かって乱暴な態度を取ったそうじゃないか。随分と保安隊の品位を貶めるような取締だったな?」
隊長は、隊員に向かって優しい口調ながらも脅威のこもった雰囲気でそう言った。
「ちが、そ、それは!」
隊員は何かを悟ったように急に顔色を変えて慌てだした。
「言い残すことはあるかな?」
「やめろ!やめてくれ!前世も今世も俺の人生メチャクチャだ!毎日の鬱憤を晴らしたくなっただけなんだ!前世のあいつに二度と会えない人生とかもう耐えられ」
BOOM!
次の瞬間、隊員の首は吹っ飛んだ。迸る血が、俺の顔を紅色に染めた。
「はい。時間切れ。ホントは粗暴な取締をしたあの場で爆破するはずだったんだけど、君が異能を悪用しないとも限らなかったからね。君を取り押さえられる人材が必要だったんだ。」
ムリダ....。日原佐助、15歳。シボウ。(精神的に)
こんな残酷な世界で、豆腐メンタルの俺が、生きていけるわけがない。
「さあ、学校に案内するとしよう。クラスメイト達も、君を心待ちにしているはずだよ。」
すだれ越しでも、威圧感を感じさせる隊長の影を俺は目に焼き付けた。
転生者異能アカデミー 〜俺達の首を賭けたデスマッチ〜 鰤々左衛門 @buriburizaemonn
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