蠢く陰謀
夜中、エカテリーナは一人で街中を歩いていた。
アレックスは宿に残している。彼が買い出しについて来ると、色々な物に興味を持って余計な出費を強いられる恐れがあると判断したためだ。
貯金はまだまだたっぷりあるとはいえ、無駄遣いは彼女の性分が許さなかった。
「それにしてもすごい人だわ」
夜になったというのに、大通りには昼間と変わらないくらいの人の往来があった。
他の国であれば、夜は暗くて物騒なので出歩く人は減るのが普通なのだが。
この国では、
それが国の賑わいを活性化しているのだが、あまりの人混みにエカテリーナは煩わしさすら感じていた。
「こっちから近道できないかしら」
そう言ってエカテリーナはダメ元で人気の少ない路地裏へと入り込む。
彼女の狙いは見事に的中し、大通りとは真逆に路地裏は人の姿がほとんど無い。スイスイ進む事ができた。
とはいえ、土地勘も無い身で裏道を使用するのは迷子になってしまう危険が高いのは百も承知なので、エカテリーナは頻繁に地図と睨めっこをしている。
「これならあと少しで宿に戻れそうね。アルはちゃんと留守番できているかしら」
そうしてしばらく歩いていると、エカテリーナは前方の曲がり角の先に奇妙な気配を感じた。
気配を断ち、周囲から察知されないようにしているのだ。
エカテリーナの感知魔法を逃れられるほど気配の消し方が上手くはなかった事もあり、彼女には中途半端に姿を隠している不審者のように感じられた。
咄嗟に曲がり角の前で足を止めて物陰に潜み、その先の様子を窺う。
気配を消す理由は、たいてい敵に気付かれたくない時だ。
こんな平和な街中で行う行為ではない。
一体誰が、何の目的で、こんな人気の無い路地裏で、わざわざ気配を消しているのか、エカテリーナは気にならずにはいられなかった。
「いや~しかし、今日は思わぬ成果が出ましたねえ」
「まったくだな。あの余所者のガキ達のおかげで俺達の計画がまた一歩前に進んだ」
そこには二人のフードを被った人物の姿があった。顔は見えないが、声からして男性なのは間違いない。
そしてその声にエカテリーナは聞き覚えがあった。今日の昼間、協会支部にいた冒険者の声だ。
という事は今、話題にできてた“余所者のガキ達”というのは自身とアレックスの事だろうとエカテリーナは瞬時に理解する。
「それにしても、まさかここまで面倒な依頼になるとは思わなかったぜ。ギルドの馬鹿どもならすぐに暴発すると思っていたが」
「うちのギルドもデッカくなって統制が効かなくなっているとはいえ、そう簡単にはいかないさ」
二人が何の話をしているのか、まだ詳細は掴めていないが、少なくとも良い話ではなさそうだと察するエカテリーナは、このまま盗み聞きを続ける。
「ギルドを内部分裂させて崩壊に追い込む、か。面白そうな話だし、何より報酬がとんでもねえ額だったから乗ったが、失敗だったか」
「今更降りるなんて言わないで下さいよ。前金だってたんまり貰ってるんですから」
“報酬”や“前金”という言葉からして、彼等の裏には黒幕が存在するのだろう。
そしてその黒幕は、ギルド
「降りるつもりなんてねえよ。ただ、思ったより面倒な依頼だったなと思っただけだ」
「確かに面倒な依頼というのは共感します。まあ
「ふん。陰湿な奴だよ」
「それはそうと、次の計画は大丈夫なんですか?」
「心配するな。ちゃんと仕込みは終わってる。あと数日で、この国は戦火に包まれるだろうさ。ヒヒヒッ」
「ッ!!」
驚きのあまりエカテリーナは思わず声を漏らしてしまう。
それは微かな声ではあったが、物静かな路地裏にはよく響いてしまった。
「……おい。今の」
「ええ。何か聞こえましたね。もし今の話を誰かに聞かれたら、マズいですよ」
「分かってるよ」
片方の男はそう言うと、一瞬にして曲がり角まで移動した。
目にも止まらぬ速さで駆ける事ができる移動魔法の一種だろう。
そして曲がり角の奥を覗き込むと、そこには誰の姿も無かった。
「……気のせいか」
男は、エカテリーナが建物の屋根の上へと瞬時に飛び移っていた事など知る由もなく「そろそろ帰るか」と提案してそのまま帰路に着くのだった。
最強剣闘士の奴隷王子は強敵との戦いを求めて旅に出る ケントゥリオン @zork1945
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