白銀の剣

 アレックスが冒険者登録を完了して冒険者カードを発行してもらった直後。


「やっと見つけたぞ! こんなところにいやがったか!」


 協会支部の正面玄関から男の声が響き渡り、アレックスとエカテリーナを含めて皆の視線が正面玄関の方に集まった。

 そこには白銀色の鎧を纏った三人組の姿がある。

 その中で両脇に立つ二人は、先ほど露店で店主に絡んでいた柄の悪い冒険者二人組だった。


 「やいやい、このガキ! 俺達に手を上げた事を後悔させてやる! こちらにいらっしゃるお方はな。我等が白銀の剣アイアン・ブレードの幹部であられるコーディ様だ! お前みたいなガキ、一撃でぶっ飛ばしてくれるわ!」


 たった今紹介されたコーディという冒険者は、アンドロと同じくらいの大柄の体格をしており、オールバックの金髪をした男性だった。

 一見強そうな外見をしているし、トップギルドの幹部クラスという事なので、それなりの実力はあるのだろうが、同じ幹部クラスをあっさりと倒したアレックスの興味を掻き立てるほどではない。


 コーディが一歩前に踏み出して建物の中に入ると、周りの冒険者達が慌てて止めに入る。


「や、やばいですよ、コーディさん!」


「そ、そうです! 見て下さい。アンドロさんがッ」


 コーディは気絶して床に寝そべっているアンドロを目にする。


「ふん。ガキ相手に油断するからだ、馬鹿め。……とはいえ、このアンドロを倒すとは中々やるじゃないか。俺達のギルドに喧嘩を売るだけの事はある。どうだ? うちのギルドに入る気はないか? ギルドマスターには俺が取りなしてやるぞ」


 アレックスは即答せずにとりあえずエカテリーナの方を見て判断を促す。

 そしてエカテリーナが静かに首を横に振ると、軽く頷いた。

 

「いや、いいよ。ギルドとか興味無いし」


「そいつは残念だな。だがまあ、ギルドの幹部を叩きのめされては、俺としてもこのままただで見過ごすわけにはいかないな」


「じゃあ、どうしろってのさ?」


「そうだな。ちょっくら迷宮ダンジョンに潜って魔物討伐の任務を引き受けてもらおうか。ちょうど今週はそこに転がってる馬鹿の班が担当する予定だったんだが、班長があれじゃあな。だからお前さんが責任を取って代わりに魔物を狩ってきてくれよ」


 コーディがそう提案すると、それにまず答えたのは周りにいる冒険者達だった。


「ちょっと待って下さい、コーディさん。俺達の任務を勝手に余所者に流さないでくれませんか!?」


「そうですよ。アンドロさんもちょっと気絶しただけです。任務に支障はありません!」


 アンドロと同じ班の冒険者達がコーディに抗議の声を上げる。

 すると今度は他の冒険者達まで声を荒げ始めた。


「お前等みたいなギルドの面汚しがコーディさんに口答えするな!」


「そうだそうだ!」


 どうやら白銀の剣アイアン・ブレードは、主にアンドロ班とコーディ班に分かれており、この両者はとても仲が悪いらしい。

 広間は一色触発の空気が流れて、皆の気分も徐々にヒートアップしていく。


 そんな中、次第にアレックスも気分が高揚して戦闘欲に頭の中が支配され出した。

 このまま乱闘騒ぎにでもなればこれ幸い、と思うようになる。


「アレックス。用事は済んだし、もう行くわよ」


 アレックスの肩に手を置いてエカテリーナが言う。


「えー。で、でも……」


「行くわよ!」


「はい……」


 二人は腰を低くし、気配を殺し、その場から静かに去るのだった。



 ◆◇◆◇◆



 協会支部を無事に脱出したアレックスとエカテリーナは、人混みに紛れて街中を歩く。

 

「ねえリーナ」


「何かしら?」


「あのコーディって奴が俺達に魔物退治の依頼をしようとした時に怒ってた奴等がいたでしょ。あいつ等、何であんなに怒ってたの? やっぱり魔物と戦えなくなるのが嫌だから?」


「皆が皆、アルみたいな戦闘馬鹿だと思わないで。でもまぁ、半分は正解かもね。冒険者ってのは、依頼を熟してその報酬としてお金をもらって生活してるのよ。だからその依頼を私達が持って行っちゃったら、彼等は収入が無くなって生活ができなくなるって問題が発生するの。アルだってお金が無くてご飯が食べられなくなったら困るでしょ」


「確かにそれは困るね! それでか~」


「まあこの国の冒険者産業は白銀の剣アイアン・ブレードの独占市場みたいだし、さっさと他の国へ移動しましょ」


「うん! そうだね!」

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