冒険者登録をする
勝手に話を進めるアレックスに対して、受付嬢は恐る恐る声をかける。
「あ、あの、今のうちに謝って退いた方が良いですよ。アンドロさんは
そう言って受付嬢はエカテリーナに、アレックスを説得するように促す視線を送るが、当のエカテリーナは「まあいいか」と軽く流している。
「ねえ、受付のお姉さん、勝負するのにちょうど良い場所はない?」
受付嬢の心配を他所に、アレックスは話を進めようとした。
「ほ、本当にやるんですか?」
「勿論! この街の冒険者の実力も見てみたいしね!」
「このガキ、舐めやがって! 生きて帰れると思うなよ!」
「そいつは楽しみだね。有言実行してくれる事を祈るよ」
それは嘘でも煽りでもなかった。
アレックスにとっては強敵との戦いが何よりの楽しみであり、自分を叩きのめすほどの敵が相手となるのなら、これほど嬉しいことはない。
「大人をコケにするのもいい加減にしろよ!」
アンドロが鞘から剣を抜いて斬りかかる。
その剣はアレックスの頭を叩き割る勢いで一直線に迫った。
しかし次の瞬間、アンドロの剣が振り下ろされた先にアレックスの姿は無く、剣はただ虚しく空を斬る。
「な、き、消えた!? ど、どこへ!?」
「いきなり斬りかかるなんて危ないな~。不意打ちも立派な戦術だと思うけど、ちょっと大人げないんじゃないかな~」
背後から聞こえたアレックスの声に反応して、アンドロは即座に身体を反転させる。
そこには両手を後頭部で組んで、如何にも余裕というような様子のアレックスがいた。
「な、い、いつの間に?」
アレックスの目にも止まらぬスピードには、流石にアンドロも驚きを隠せなかった。
そして周りにいる冒険者達や受付嬢もそれは同じようだった。
「どうしたんだ? もう終わりか? つまらないなー」
「馬鹿にするな!」
アンドロは走り出し、右手に握られた剣を振るう。
その斬撃は決して悪いものではなかった。優れたスピードと力が伴っており、並大抵の敵であればこれで勝負が着くことだろう。
しかし、そんな斬撃の連続攻撃を受けてもアレックスは、それを軽々と避ける。
アレックスに言わせてみれば、アンドロの剣筋は直線的で単純過ぎるのだ。これならアレックスの“
アレックスは軽く後ろにジャンプして間合いとする。
「ったく、期待外れも良いとこだな」
「このガキー!」
頭に血が上ったアンドロが考え無しに走り出す。
アレックスは握り拳を作ると、猛進してくるアンドロの顔にクリーンヒットする位置に置く。
すると、アンドロは自ら顔面に拳を食らいに行く格好になり、アレックスはほぼ何もせずにアンドロをノックアウトした。
「ぐはッ!」
アンドロの巨体が背中から床に倒れ込む。
床に伏したアンドロは微動だにせず、完全に気絶してしまっていた。
「はい! これでおしまい! 次に勝負する奴、誰かいるー?」
アレックスは辺りを見渡して、周囲の冒険者達に視線を向ける。
しかし彼等は全員、その視線から目を背けて沈黙を貫いた。
「いないようだね。それじゃあお姉さん、俺の冒険者登録をお願いするよ」
「え? あ、は、はい。分かりました」
受付嬢は一枚の書類をアレックスに差し出す。
「こちらに記入をお願いします。代筆は必要ですか?」
「いや。大丈夫だよ。自分で書けるから」
アレックスやエカテリーナのような高貴な生まれならともかく、貧しい庶民であれば文字の読み書きができない者も多い。
一攫千金を狙う冒険者は、貴族や王族よりも庶民の方がなりてが多いはずであり、冒険者登録のために必要な書類の記入すらままならない者も少なくない事だろう。
その書類には、自分の名前、生年月日、出身国などの個人情報を記入する項目があった。
それを一通り書き終えると、受付嬢は冒険者協会の説明を始める。
その話を要約すると、冒険者には“冒険者ランク”というものが存在し、下からF級、E級、D級、C級、B級、A級、S級という等級に分かれている。
上に登れば登るほど高難易度の依頼を受けられるようになるという。
と言ってもS級冒険者は戦争といった国家の危機レベルの依頼すらも受けられるほどらしく、この世界に十人もいるか怪しいレベルだとか。
そしてこのあと受け取る冒険者カードというものは、身分証明書としても機能するらしく、入国審査が厳しい国でもこのカードを見せると問題なく通してくれるところが多いとのこと。
依頼の成功数や失敗数など協会内における記録が全て記載されるようで、冒険者稼業では必須のアイテムらしい。
「因みに紛失した場合は再発行に百カイゼルが必要になりますので大切にして下さいね」
「け、けっこう高いんだね。気を付けるよ」
そう言いながらアレックスは心の中で、リーナに預かってもらおう、と決意するのだった。
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