冒険者協会ラビリンス支部

 服屋で衣装を揃えたアレックスとエカテリーナは、街の大通りの中を進んでいた。


「なあリーナ、俺達ってこのあと冒険者協会にいって冒険者登録をする予定だったんだよな」


「ええ。そうね」


 冒険者協会。

 それは冒険者の活動を支援するための公的組合の事である。世界各国に支部を設けており、その支部のどこかで冒険者登録を行うと、世界各国に点在する全ての支部で仕事の斡旋や報酬の受け取りなどが行える。

 冒険者協会は国境を越えた機関であるため、ヴィクトリア王国で指名手配されているアレックスも冒険者登録は問題無く行える点からも、今後の事も考えて冒険者になるのが一番とエカテリーナは判断したのだ。


「でもさ。さっきの服屋での話といい、露店での一件といい、何かこの街の冒険者ってあんまり良いイメージが無いんだけど」


「それは私も同感よ。でも登録さえしておけば他の国でも活動はできるし、せっかく来たんだから、登録だけでもしちゃいましょ」


「うん。まあ良いけど」


「それに迷宮には強い魔物も出るって言うし、もしここで冒険者登録をしたら、その魔物と戦えるかもしれないわよ」



 強い魔物と戦えるかもしれない。

 そう聞いた途端、アレックスは目の色を変えた。


「本当に!?」


「え? も、もしかしたらね」


「じゃあ早く行こう! 急いで行こう!」


 アレックスはエカテリーナの手を引いて、グイグイ前に進む。


「ちょ、ちょっと待って。アル、協会支部の場所、知らないでしょ」



 ◆◇◆◇◆



 冒険者協会ラビリンス支部は、都市の一等地の中に建てられており、周囲の建物に比べると一際大きい。

 どうやら相当に羽振りが良いようだ。


 アレックスとエカテリーナは、建物の正面に設けられた扉を潜って中に入る。


 中に入ると、そこは居酒屋のようになっていて、屈強な男達が昼間から酒を片手に談笑に耽っていた。


 二人はそこを通り抜けて奥に進むと、受付カウンターらしき所に辿り着く。


「あの、冒険者登録をしたいんですけど」


 エカテリーナが受付嬢に聞くと、受付嬢はニコッと笑みを浮かべながら応対する。


「ようこそ。冒険者協会ラビリンス支部へ。お二人とも冒険者のご登録という事で宜しかったでしょうか?」


「あ。私はもう登録しているので、この子だけお願いします」


「分かりました」


 受付嬢が登録のための事務作業に入ろうとしたその時だった。

 後ろから陽気な男の声が響く。


「おいおい。お前みたいなちんちくりんが冒険者だって!? 笑わせるんじゃねえぜ」


 声を聞いてアレックスが振り返ると、そこには大柄な体格にスキンヘッドの頭をした冒険者が立っていた。頬は僅かに赤くなっており、既に酔っている事は容易に想像がつく。


「おい、聞いてるのか、坊主!? おめぇみたいなガキはうちに帰って母ちゃんのおっぱいでも啜ってな! ガハハハハッ!」


 下品な笑い声が広間に響き渡り、周りにいる冒険者達もそれに同調するかのように笑い声を上げる。

 そんな中、受付嬢のお姉さんだけはスキンヘッドの冒険者に抗議した。


「アンドロさん、せっかく冒険者になりたいって人が来てくれたんですから、そんな言い方をしなくても」


「ふん! このラビリンス支部は俺達【白銀の剣アイアン・ブレード】がいれば安泰なのさ! こんなガキは必要ねえ!」


 “白銀の剣アイアン・ブレード

 二人はその名に聞き覚えがあった。

 それは先ほど露店で店主に絡んでいた二人組が所属しているというギルドの名だ。

 改めて見ると、このアンドロと呼ばれた冒険者もあの二人と同じ白銀の鎧を身につけている事にアレックスは気付く。

 そして周りには、同じような鎧を纏っている冒険者がちらひらと居る。


 どうやら白銀の剣アイアン・ブレードというのは、このラビリンス支部におけるトップギルドらしい。


「私達はとりあえず登録だけしに来ただけです。別にここを活動の拠点にするつもりはありません」


「そんな半端な奴はこのラビリンスには必要ねえな。さっさと出てけ」


「冒険者協会では十五歳以上であれば誰でも冒険者登録ができるという規定になっているはずですが?」


 冒険者協会の規定は、この大陸各国を束ねる“神聖世界帝国しんせいせかいていこく”が定めた冒険者基本法によって保障されている。いくらトップギルドだとしても、一介の冒険者に口出しできる話ではない。


「おいおい。俺はお前等を心配して言ってやってるんだぜ。お前等みたいなガキが魔物に襲われて死んじまったら可哀想だろ」


 エカテリーナがアンドロに対して言い返そうとする前に、彼女の前にアレックスが出る。


「じゃあさ。勝負しようよ。で、俺が勝ったら、この話はもうおしまいって事で!」


「はぁ? おめぇみたいなガキがこの俺様に勝てるはずがねえだろ」


「それはやってみないと分からないさ」


「ったく人の親切心を無下にしやがって。そんなに痛い目に会いたいなら望み通りにしてやる」


 アンドロがそう言うと、周りにいる他の冒険者達が笑い声をあげる。明らかにこの状況を面白がっている。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る