第23話
紀張伊坂(きわい坂)
ここは央道線周防町駅に近くスカイラウンジで有名な高級ホテルや有名大学が並ぶ都内でも比較的閑静な場所でここを車でまわると幕府用心の自宅なども多く警備にあたる為のパトカーや警官を度々目にする
通りを少し過ぎた所は門の壁が続くちょっとした御屋敷、ここが薩摩が幕府から譲られた邸宅だ。門をくぐるとそこはもう治外法権、そこはもう「薩摩藩」なのだ
門には警備の者なのかスーツの男が2名ほどいた
邸宅の目の前に車をつけまずは藤堂から降り、斎藤、山崎、近藤と続いて降り
「なんだぁ!お前ら!」
警備の男が武器を構え強めの口調で藤堂に言った
「ーこちら入口、至急応援を!ー」
もう1人が無線で連絡をしだした
それもそのはずジャケットを羽織ったりカジュアルな感じであるが山崎を覗いて武装しているのがわかるのだから。
藤堂が近藤を指さしながら
「俺はね?なーんもしないよ!!俺はやめた方が良いっていったんだけどこの人達聞かなくてねぇ」
ヘラヘラしながら藤堂が答え、その横から近藤が割って入り部隊章をこれみよがしに見せた
「これで俺たちの身分が分かったろ?中にいるのはわかってる、戦術狼の近藤が来たってさっさと伝えてこい」
部隊章を見た護衛達は少しざわつき1人がどこかに連絡
「東京の連中とはいえ約束もせんと会えると思ったんか?礼儀知らずの犬どもめ」
「ワシらが犬やったらお前らは田舎の黒豚やないかい」
山崎のツッコミに藤堂が吹き出した
「誰が田舎の黒豚だぁ!!何笑ってんだ!」
「ぶち殺すぞ!この野郎共」
「こんなヤツらバラしちまえ!」
「どうしたん?びびってるんかぁ?」
と怒号が飛び交うなか
「お前らは下っ端と口をきく道理もない、取り次がないなら俺たちなりのやり方でやるか…それでもいいか?」
近藤がそう言うと同時に近藤、藤堂、斎藤が武器に手をかけ山崎も上着の内側に手を入れた
警備の1人が連絡を受け間に入り
「お会いになるそうだ、こちらへ」
「話が早くて助かるよ、…お前ら、粗相のないようにな」
近藤が制し全員乱れた服を直して案内役について行き門をくぐるった後邸宅入口で長身細身の男がでむかえた
「戦術狼の近藤さんですね?初めまして、私、秘書の中村と言います。御仁の所まで私がご案内しますのでご一緒どうぞ」
中村はそう言うと邸宅の両開きドアを開け近藤達を中へ招きいれた
邸宅は広く昔の西洋屋敷をモチーフにしたのかアンティーク調の家具や置物、絵画等が飾られていてその1つ1つを中村は優越感に浸りながら近藤に語っていた
「この絵は滝原先生最後の作品と言われてましてね、私も初めて閲覧した時過去一の作品だと思いました。幕府領内でもこれだけ描ける絵描きの方はそうそういないでしょうねぇ」
「すげー、高そう」
近藤は適当に相槌を打ち藤堂は周りを見渡しながら歩き時折斎藤も物珍しい郷土品を2度見したりしていた
中庭は庭師が丁度手入れ中でこちらと目が会い一礼され近藤もかるく会釈をした
「こちらの中庭も大したものでしょう?西郷先生の肝いりでしてね、置き石等は薩摩から運ばせたんです、そうそう平岡先生達もここでのお茶会に来られましたなぁ、あ…近藤様はお招きされてませんでしたね?お約束さえ頂けたらお招きしますよ」
近藤を下に見た態度で中村はそう言い放った、斎藤や山崎は敵意をむき出しに睨んでいたがとうの近藤は相変わらずの相槌だけ
「中村さん、ご丁寧にご高説ありがとう、だが俺は絵とか郷土品のような芸術とかに疎くてね。こういうモノも好きな方には受け入れられるのだろうけど俺は家族や仲間が写った写真や風景写真を見てる方が好きなんだ。」
中村の得意げにカウンターを決めた
悔しかったのか中村は咳払いをして歩き応接室前まで差し掛かった
「ではこちらに武器等をお預けください、お約束もない方は信用できません。そもそも御仁に会うのに武器なんて必要ありません」
この申し出に藤堂、山崎が噛み付いた
「そんなんおかしいやないかい、そっちは持っててこっちは持てないんか?丸腰でなんてか会えるかいな」
「そりゃそうだ、こっちの安全を保証してくれもしない、ましてや治外法権って言われちゃったしね」
2人の申し出に中村も反論
「こちらは別にあなた方と会う必要もないんです、ご不満でしたらこのままお帰りになられて結構ですよ、ま、そうなると無駄足ですな、おーいこちらがお帰りのようだ、送って差し上げろ」
中村の申し出に薩摩の人間が反応して2人ほど現れた
「中村さん?そちらがどういうつもりか知らないが俺は西郷さんに話を聞きたくてここにきた、内容によっては西郷さん自身が身の潔白を証明しないと行けない話だ、なのにそれを秘書の君が勝手な判断で俺たちを帰すって事を決めたら西郷さんはどう思うかな?それにそちらが武装している以上こちらの武装放棄の提案は受け入れられない」
下唇を噛み少し間を置き中村が喋った
「我々があなた方に危害を加えるとでもお思いか?」
「話の内容によっては我々が消される可能性だってある、なぜならここは治外法権だからだ、我々が疑わしい連中と判断されないという保証はない」
「我々薩摩藩の人間は信用できんと?」
「不確定要素に基づく交渉はしない、会えないのならこのまま引き下がるさ。その代わり俺達は超法規的部隊だ、東京の治安悪化の理由がここにあると俺が判断したらどんな事でも理由付けてここに踏み込んだっていい、外交特権などクソ喰らえだ、それを忘れるなよ」
「その超法規的部隊と言う割には随分と臆病な事だな…そんなに…」
「もういい!さっさとここにお通ししろ!」
中村が言い終わる前に奥の部屋から声がし、中村が慌てて部屋に入っていった
「まどろこっしい事…」「すみ…」「交渉が下手…」
奥の部屋で誰かが中村を叱っているのだろう、時折なにかを殴る音もして少しすると戸が開き中村が現れた
「御仁はこちらです…」
「武装はこのままでいいのかな?」
「…」
中村は近藤の申し出を無視しての4人を招き入れた
部屋は広くアンティーク調の机と揃いの椅子に西郷が座り左右に2人ずつ護衛と思わしき人間をはべらせていた
「やぁ、近藤…とか言ったな、ウチの中村が失礼をしたようだ。初めましてだな、俺が西郷だ」
葉巻を潜らせながら自己紹介をした
「お約束せずすみません、自己紹介は…もう結構ですね、この度は西郷さん直々にお話を伺いたく参りました」
「あぁそうかい、まぁ座りさないよ」
「いえ、我々はこのままで」
「あんたらが立ちっぱなしだと俺が偉そうにしてるみたいで好かん、座れ」
「では、失礼して」
近藤、斎藤、藤堂、山崎の順に座った
「して話というんはなんだ?」
「最近の治安の悪化で何人かとっ捕まえましてね、尋問すると口々に薩摩藩の名前がでるんですよ、不思議に思いましてね」
「知らん知らん!ウチもそれなりに名が売れてんだ、騙るやつもおるだろう?それがワシとどう関係があるんじゃ」
「まぁ貴方の立場だとそう言うしかありませんよね?いいでしょう、ここまでは私も想定内です、それに困ったら「外交特権」を理由にどうとでも隠せますしな」
ガァン!
「何が言いたい!そんな言うならワシがそれらに関わってる証拠の1つでも出してみろ!ワシは忙しいんじゃ!こんな与太話に付き合う暇なんぞない!」
机を叩きながら西郷が応えた
「どうしました?まだ核心の話でもないのに、気に障りましたかな?では与太話じゃない面白い話をしましょう、最近寅巳の港で武器取引がありましてね?主犯と思われる人間を捕まえたら薩摩藩と中村さんの名前が出ましてね…あ、証拠の音声出しますね」
そういい近藤は懐からスマホを出した
ー受け取りは本来薩摩の中村ってのが受け取りに来る予定だったんだ!それが何故か中村ってのは来なくて…本当に俺は薩摩に雇われただけでこれ以上は知らん!本当なんだ!信じてくれよ…ー
「こんなもんなんの証拠にもならん!」
西郷も負けてない、それはそうだ
「こんなデータもあるんですよ、消しても無駄です、バックアップはありますので」
そういい今度は端末を渡した
画面にはその日取引に使われた船の名義や今まで捕まえた人間の証言当のデータが映し出されていた
「…こんなもん!!」
「それに薩摩藩名義で大量に買い込んでる武器や弾薬、車両、西側で買うならまだしもここ幕府領内で取引する必要を説明して頂きたい」
「ふん!薩摩藩の外交問題だ!」
「お?やはりそうきましたか…さすが秘密主義の田舎者と言われるだけありますね」
「なんだとぉぉ!誰が田舎もんじゃ!ぶち殺されたいんか!己らは!」
「西郷さんを愚弄するのはゆるさんぞ!」
「ぶち殺すぞ!ゴルらァ!」
西郷の怒号と同時に人が数名入ってきて護衛や中村が刀や銃を近藤達に向けた
「なんだこいつらぁ?目くじら立てて、うわーこんなことで怒るとか怖ーーい!そんなんじゃモ・テ・ナ・イぞ?」
「もうええやろ?近藤はん、こいつら真っ黒や」
斎藤も無言の殺意を放ち刀に手をかけた時
「お前ら覚悟はできてるか?」
「この漢、藤堂こうなったらお供しまっせ〜」
「野暮なこと聞くなや、近藤はん」
斎藤も無言で首を縦に力強く頷いた
「やる気か!このクソ犬共め!オイ!お前ら!こいつらここから…」
「弾くならちゃんと狙えよ?田舎モン共が」
西郷が言い終わる前に近藤がジャケットの片方をめくると内側に手榴弾が数個
「狙いがズレたら全員ドカンだ」
「どうせハッタリだ!西郷さん!こいつらここで!」
半次郎が手に持っていた銃の引き金の指に力を込めた
「やめぇ!半次郎!こいつは本気だ!そんな事もわからんのか!駄馬がぁ!お前らもそんなもん降ろせ!」
西郷がそう言うと全員武器を下げ西郷がニヤつきながら近藤を見た
「生命拾いしたなぁ?近藤ぉ?」
「お互いがかな?」
「フン!あー言えばこう言う奴だ!もう帰れ!ワシは忙しいんだ!」
「帰る前に最後に1つだけ聞きたい、これが本題なんだ、西郷さん」
「なんじゃ!」
「この質問には嘘無く答えて頂きたい…」
近藤は椅子から立ち上がり西郷の目を見ながら問うた
「…坂本…坂本という男を知っていますか?ここ最近全ての事件で聞く名前です、取り引き現場で捕まえた男も坂本という名前を出していた、西郷さんお答えください」
「知らん知らん、帰れ!ほら!」
そう西郷が言い終わると山崎が懐から小さい試験管を出し床に落とし試験管か割れる音がした
カチャン!
「近藤はん、やっぱりこいつらここでやっといた方がええやろ?これワシが調合した菌や、これは空気感染するもんでなぁ、もうワシら感染しとるぞー自信作やねん」
「ゲ!何してんだよ!解毒剤とか…」
斎藤が藤堂の服の裾を強く引っ張って小さく「静かに」のジェスチャーをした
「おぉ山崎さん、そうだな、いい時にやってくれたよ」
「何考えてんだ!お前!!」
「本当は知っているのでしょう?」
「知らん!本当に知らん!」
中村が山崎に駆け寄り胸ぐらを掴みかかった
「何をばら蒔いたんだ!何を!早く治療薬を西郷さんに渡せ!」
「もう手遅れやで、この部屋の俺達はもう感染してる、保菌者になったら最後、接触した人間はすぐに人に感染させるぞ」
西郷の護衛達もアタフタしだし
「…ワシは本当に知らん!本当だ!だから…」
西郷も焦りだした
「アハハハッ!やっぱり怖いんですね?西郷さんともあろう方が、山崎さん、ホントはブラフなんだろう?」
近藤がニヤニヤしながら山崎に尋ねた
「近藤はんにはバレてたか…ただの水や、そんなもん作れるか」
西郷が机の引き出しから銃を出し
「出ていけぇ!このクソ駄犬ども!このままじゃ済まさんからなぁ!出ていかんと今すぐ殺すぞ!」
この一言に反応したのは近藤だった
「このままじゃ済まさない?それはこっちのセリフだ、実はな?前にウチにいた人間と誰か喋ってる音声が秘匿回線で送られてきたんだ、その音声がな?そこにいる中村さんと声がそっくりなんだよ。だからさっき案内してくれた時に録音したんだ」
スマホを操作し意気揚々と話す中村の音声が流れた
「これを解析して同一人物と判明したら…それを証拠にここにガサかけるからな、覚悟をするのはそっちだ、じゃあな、西郷さん」
そう言い近藤が懐の手榴弾を1つ落とした
「お前らさっさと車に戻れ!」
号令と同時に4人が応接室から出ていった
「おい!なんとかせぇ!爆発するぞ!」
西郷が中村の首を掴み手榴弾に覆い被さるように倒した
「何を!」
「お前はワシを守るのが仕事だろう!」
「そんな!ひぃ!」
ポンッ
中村の下腹部あたりで小さく手榴弾が破裂した
「不発…だったのか?」
「なんだアイツらは!それに中村ぁぁぁ!」
倒れた中村を引き起こし持っていたステッキて乱打した
「すみませんすみませんすみませんすみませんすみません」
「意気揚々と喋りやがって!お前ってバレたらどう言い訳するんだ!このクソバカが!死ね!お前なんて!死んでしまえ!このゴミ!」
西郷が怒鳴り散らしていたら隣の部屋から笑い声がしてドアが開き男が入ってきた
「アハハハハハハハ!イカれてんなぁ!アイツは!」
「聞いとったんか!お前」
「ぜーんぶ聞いてたぜ、なんだよ西郷さん初めっから負けてたじゃねぇか」
「お前から聞いてた印象とだいぶ違うじゃねぇか!」
「フッ…もう俺の事を掴んだのか、意外と早かったな」
「取引もご破算、中村の脇の甘さ、どうするつもりじゃ!」
「慌てんな慌てんな、代わりのブツなんかはグラパーに言ってすぐに取り寄せさせるさ、それにそのバカの脇の甘さはあんたの躾が悪いからだ、だからあんたは政治だけやっとけ」
「代わりのブツをさっさと用意しろ!あれだけワシに大見得切ったんだ!それに見合う仕事をしろ!」
その男はシルバーのZIPPOで外国産タバコに火をつけた
「悠長にタバコなんか吸ってる場合か!坂本!」
「甘さがぬけたなぁ…近藤…いい顔つきになったじゃねぇか」
坂本と呼ばれた男はどこか満足気なタバコをふかした
戦術狼 乾杯野郎 @km0629
★で称える
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