第22話


「ヴーーーー!ヴーー!ヴーー!」


屯所の奥一角から呻きが響く

ここは尋問室

ここに入れられた者は身体か精神が壊されていく

我慢強い者の方がどこか壊されて結果喋るがその頃には「元の自分」ではない

ここに人が入れられると山南や永倉は自室に引きこもり出てこない

共有スペースまで聞こえないが気持ちのいい物ではないのは沖田や原田でさえ無口になるという事で充分理解しえる

尋問は医師の山崎が立ち会い口の硬い連中には外科的な拷問や薬物投与を行い質問は土方や近藤がする

土方が先に尋問したが口を割らないので近藤に代わった

先日捕まえた狐面の男が素顔で猿轡、手足、腰を拘束され横たわっていて男の手足には大きな傷跡があり土方がどんな尋問をしたか想像がつく


「さてお前さんはどこまで持つかなぁ、ほないこか」

山崎は調整した弛緩剤と麻酔を注射し狐面の男が意識を切らさないようにモニターを見ながら投与した

「俺はなーんも聞かん、聞くんはこっちの人や、あんたがさっさと喋ってくれれば俺も寿司食いに行けたんや。俺の予定潰したんやから短時間で音を上げるなよ」


投与が終わり数分近藤が猿轡を乱暴に外した

「どうだ?首から下の感覚があるか?」

「クスリはもう効いとる」

狐面の男が重い口を開いた

「…何をされても喋る事なん…」

「喋る事なんてないって言いたいのか?岡田?」

「?!」

「指紋もある、身分証なんか無くてもウチのデータ解析を舐めるなよ、大体の経歴はわかってんだ。さて本題だ、お前は雇われてたみたいだが誰に雇われた?」

岡田は黙ったままだ

「その傷跡は電気とか釘か?俺は歳さんみたく優しくないぞ?」

そういい近藤が部屋の隅に置いてある工事用ハンマーを持ち引きずりながら戻ってきた

「いいかぁ…そのまま絶対喋るなよ…」

ハンマーを振り上げ被弾してない左足目掛け振り下ろした


ゴキッ


骨が折れた音が響いた


「ぎゃーーー!」


「近藤はん!打ち合わせと違うやないかい!何しとんるや!」

山崎が制止したが近藤は聞く耳を持たない

「痛みは感じない筈だが…やはり目視すると怖いもんか?喋れる事はわかったから今度はもう少し派手にいくぞ」

「こ、こ、こんなの尋問じゃない!」

岡田と呼ばれた男は怯えながら返答した

「ん?そもそもここは超法規的部隊、ここでの生殺与奪の権は俺が持ってるんだ、さっさと喋れば良かったのにな…」

そういい近藤は小さな何かを折れた足に付けだした


「なんだよ…なんなんだよ!それ?!」


「近藤はん!なんちゅうもう持ってきたんや!」

山崎はそれが何かすぐにわかったので近藤と岡田と呼ばれる男の間に割って入った

「喋りもしない奴の足なんて必要ないだろ?そこを退け!山崎!」

近藤が強めに山崎を押しのけ制止を無視し小さい箱を折れた左の骨の部分にセットした

「…さて…岡田とやら…どうなるか見ものだな」

「や、や、や、や、やめてくれ…こんなの正気じゃない…」

岡田の言い分を無視し右手で小型の何かのスイッチを押した


ボン!


「ぎゃーーーーー!」


小型の箱が爆発し折れた左足の膝から下が垂れ下がり皮で辛うじて繋がってる状態になった


「痛みはないだろ?どうだ?何も感じず自分の肉が吹っ飛ぶさまを見続けるのは?」

岡田は失禁していた

「んーー?指向性で火薬を少なくしてもこんなもんなんだな、よし、次行くか」


「止血ぐらいさせぇ!あんたおかしいで!ここまでやる必要ないやろ!アタマおかしいんか?!」

「頼むよ!あんた、助けてくれ!なんでも喋るから!!」

岡田が山崎に必死で懇願しだた

「はよ喋れ!なんや!」

「俺は薩摩の奴から言われたんだ!それと仕入れたの薩摩の人間じゃあない!」

近藤は聞こえない素振りをしながらもうひとつの指向性爆弾を準備

「受け取りは薩摩だ!仕入れたのは別の人間だ!」

近藤は流行り歌の鼻歌を歌いながら右手肘に箱をセット

「お前!腕も飛ぶぞ!どうすんねん!近藤はんも!喋ってるやないか!聞けや!」

山崎の怒号が響いた

「仕入れたのはグラパー商会と仲のいい奴だ!名前は坂本!坂本だ!本当にそれ以上知らん!」

「よーし、いくぞー?右手が飛ぶから最後にさよなら言えよ」

「やめ!近藤!もう充分や!」

「ひぃぃぃぃぃぃぃ!やめてくれぇぇ!」


少し間を置いた後に


カチッ


爆発はしなかった


「あ、信管抜けてたわ、もう1回やるぞ」

信管をセットしようとしたら岡田は早口で

「坂本って奴の仕切りで受け取りは本来薩摩の中村ってのが受け取りに来る予定だったんだ!それが何故か中村ってのは来なくて…本当に俺は薩摩に雇われただけでこれ以上は知らん!本当なんだ!信じてくれよ…」

信管のセットをやめながら

「さっさと初めっから喋れよ、めんどくせぇな、で?お前は坂本って奴と会ったことあんのか?」

岡田は全力で首を横に降った

「リモートでしかない!基本アイツは顔を出さない!」

「お前、節々に四国の訛りがあるな…生まれは土佐藩か?土佐もこの事に首突っ込んでんの?」

「知らん知らん!俺は生まれがそこなだけだ!」

聞き終わると近藤はまた信管のセットをしだした

「ったく…この後に及んでつまんねー話か?」

「本当に知らないんだ…!頼むよ…俺は雇われただけ!ひぃぃぃぃぃぃぃ!」

「こいつ本当の事言うとるよ!もうやめ!」

近藤が手を止めた

「まぁ…話の内容も全部録音したしな、まずまずの結果だ」

涙や鼻水でぐちゃぐちゃの顔した岡田が近藤を睨みつけ

「お前イカれてる…どんな事でもして俺はこの足の落とし前をてめぇに付けさせるからな!!覚…」


パァン!

クチャ


岡田が言い終わる前に近藤がこめかみ側面をG19で撃ち抜き貫通した反対側から脳の欠片が飛び出た


「いらんことは喋れるんだなぁ、山崎さん、いつも通り警察にそれを引き渡してくれ、別に処置もしないでいい。ウチの部隊に楯突く連中がどうなるか見せしめだ」

そういい終わると尋問室から出ていった


共有スペースに戻った近藤が口を開いた

「やっと黒幕がわかった、これからその黒幕に会いに行く、斎藤、藤堂、一緒に来い。歳さん、伊東さんは万が一俺が帰ってこなかったら…警察にも連絡してここ囲んでくれ」

そう言ってディスプレイに建物を表示した


「いや!ここは!」

驚く土方

「こんな所に話を聞きに行くなんて無茶だ…」

頭を抱える伊東


「やっと捕まえた尻尾だ、ちょうど外交官としてこっちに来てる。田舎に引っ込まれる前に揺さぶっ…」

近藤が喋り終わる前に山崎が近藤の肩を掴み右の拳が顔を捉えた

「アンタ頭おかしいんか?!あんなもん尋問やない!ただの脅しやないか!」

2発目が入る前に藤堂や土方が山崎を止めた

「離せや!なんも知らんと!」

「ちょっと山崎さん!何があったんです?!」

「山崎さん!どうどうどう」

殴られても我関せずの近藤に余計腹が立ったのだろう

「なんか言うてみぃや!この人なぁ!尋問に爆弾まで使うたんや!捨て台詞なんてどいつもこいつも言うのに…最後アタマまで撃ち抜いて」

その場にいた近藤を除く全員言葉を失ったのか黙って近藤を見つめた

「俺がやり過ぎっていいたいのかい?じゃあのまま黙秘したらどうなった?こちらが後手後手になっただけだろう?」

近藤は身支度をしながら答え

「殴らんから離せや!」

土方と藤堂が山崎を離した

「なんで殺したんや!あぁん?」

「この際だからハッキリ言う、幕府上層部の合併派は西の奴らとつるんでる、この情報が漏れ万が一この状況であの男を釈放する奴がいたら何をしでかすか分からん」

「せやからって殺す事ないやろ?!」

「なら山崎さんに聞くが殺さず裏で釈放された奴が悪事を働き死傷者が出たら山崎さん?あなたは何と言って被害者やその遺族に詫びるんだ?」

「やからって…」

「それにな、アイツは俺の仲間を傷つけた、そんな奴を俺は生かしておかない」

みんな顔を見合わせて沈黙したがそれを破ったのは伊東だった

「しかし聞きようによっては近藤さんの個人的主観のみで殺したとも聞こえるなぁ、超法規的部隊とはいえそれはマズイんじゃないか?」

と嫌味ったらしさ全開で噛み付いた

「そう思うなら俺を平岡あたりに告発しろ、もし評議会で俺のクビが決まったらそうすりゃ新しい局長はあんたかもな」

「局長どうこうの話じゃない!あんたの主観で殺されるかもと考えたら信用なんてできん!お前らだってそう思うだろう?!」

伊東がいるメンバーに対して大きな声で言い谷、松原、林、武田はそろって賛同した

「そうだ!」

「殺す必要なんかない!」

ニヤつきながら伊東が近藤の目を見たが


「信用できねぇならまとめて出ていけよ、俺は残る」

そういい土方が近藤に近寄った

「あんたが拾ってくれなかったらとっくに俺は殺されていた、だから俺はアンタにこの命、預けるよ。俺だけじゃ不満ですか?」

「充分過ぎるよ、ありがとう」

「勝手に決めんなよ、俺だって残るわ」

沖田が手を挙げ、斎藤は近藤に近づき手を握った

「近藤さんといた方が退屈しなそうだな、こりゃ」

藤堂も手を挙げ

「小夜姐もだろ?」

「うるさいな!今言おうとしたんだ!」

小さなゴミを藤堂に投げながら原田が答えた

こうなると伊東達の立場が悪い

「辞める辞めないなんて話はしとらん!ただ…」

「じゃあ近藤さんに従うって事でいいよなぁ?」

伊東達は土方に圧をかけられ場が悪くなったのかそれぞれ席に座った

「山崎さん、俺のやり方が気にいらないならそれでいい、ただ今はどこから狙われてるか分からない状況で手段を選んでる状況じゃないんだ」


ガァン!

山崎が椅子を蹴飛ばしながら言った

「アンタの言い分は分かったよ、ただ最後にああいうことするならもう俺を呼ぶな、殺しちゃうなら俺のいる意味ないからな!」

そういい近藤に背をむけた


「よし、これから薩摩の田舎モンに会いに行く、斎藤と藤堂は準備しろ」

「はぁーーい」

藤堂も身支度をし斎藤も席に戻って支度をした

「近藤さん、俺も行きます、危険すぎる」

「いや、さっきも言ったが万が一奴ら俺らを殺すような事になったら後の指揮の為に歳さんは残ってくれ、頼む」

「…わかりました、でも絶対帰って来てくださいね」

「…ああ…」

「斎藤ちゃんと俺、準備できましたー!」

「アタシも行…」

藤堂達が支度を終え原田も志願した時だった

「オレも行く」

意外にも山崎が手を挙げた

「どんな奴か顔をみたい、戦闘員じゃないとかの理由で却下すんよ?俺だって訓練してるんだ、アンタが何を言おうとついてくで」

山崎の決意は硬そうだ

「…わかった、ただし万が一も…」

「わかってるよ、そうなったとしても俺はアンタを責めん、割り切ってるよ、支度するから駐車場で待っとき、すぐ行くから」

そういい治療室に戻っていった


〜地下駐車場〜

隊員達私物の車やバイクはもあるが隊員用に支給された指揮車や車も何台かあり近藤は支給されたハイブリットの車を選んだ

山崎を待ったが時計に目をやり

「斎藤、藤堂、乗れ、行くぞ」

「運転は俺はやるよ、近藤さんは後ろに座って」

そういい後部座席のドアを開けた時山崎が走ってきた

「ハァ…ハァ…待っとけ言うたやろ?せっかちやな、運転は俺がする藤堂はんは助手席や、近藤はんとべっぴんはんは後ろに座り」

そういい運転席に山崎が座りエンジンをかけた

「さぁてみんなで悪いやつの顔拝みに行こか」

「気合い入れて行きまっしょい!」

後部座席に近藤と斎藤が座り助手席の藤堂が両手で拳を作り拳同士を合わせ、山崎は力強くハンドルを握り車を発進させた





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