7章
とある夜。深夜2時のことだった。
菅原太一-もとい、元野良猫の太一は、夜の散歩をしていた。あの若者に、あんなことを言ってしまって良かったのだろうか。太一は、相手が、あいなに関わっている人間かどうかがわかる。いや、わかるようにさせられたのだ。
-あの、死にたがり屋の見守り人として。
と、奥に、やけに輝く人影を見つけた。
「-はあ、やはり、ああするべきでは無かったか…」
「おや、こんなところで何をしておられるのですか?女神さま。」
「えーっと君は…ああそうだ、野良猫の太一君だね。亜弥ちゃんのところによく行っていた。」
「その節はどうも。」
「いやいや、これも仕事だからね。」
「…神々の暇を持て余すために、事件を作り出すことが、仕事、ですか。」
「…やだなぁ、随分と人聞きの悪い言い方をするじゃないですか。」
「人聞きの悪いような事してんのは、そっちでしょう。」
「でも、こうすることで救えたモノもあるのですよ?」
ふふっ、と、無害そうに笑いながら、女神は責任逃れをする。
「人は、救えてませんけどね。」
「あらぁ、あんな、傍若無人で愚かなモノたちを、どうして救わなければならないのかしらぁ?」
「…」
「でも、あいなさんには、可哀想なことをしてしまったわね。あの子の願いは、どれも叶えられないモノだったから、仕方ないのだけれど。」
こいつら神は、いつもそうだ。この女神に人のようで人でない、天界を行き来できる体にされてから、度々天界には行っているけど、神たちは、大体、下界に摩訶不思議な現象をわざと落としては、それで狂う人生をみて、映画のように楽しんでいる。
ことあるごとに、仕方ない、しょうがない、できないんだから、を、連発する。
太一は、この身体になって、初めて神の存在を信じ、神を軽蔑した。
でも、こいつらはそんなこともお構いなしに、いつも『遊んで』いる。
そもそも、なんでたまたまそばで死んでて、菅原亜弥と関わりがあったからというだけで、なんであいなのお守りにされなきゃ行けなかったんだ。こっちの身にもなってほしい。
「あんた、女神というより悪魔だよな。」
「いえいえ、わたくしより凄い神なんて、他にも山といますから。」
「はぁー。」
やばすぎる。真に傍若無人なのは、こいつらでは無いのだろうか。
「で、あいなは、今どこに行っちゃったんですか?」
「どこでしょーう。」
「あのですね…」
「ふふ。ちゃんと答えますよ。…あいなさんはね、今は、おねむなんですよ。静かにしています。当分は、こころを落ち着かせるために眠り続けるでしょう。あなたも、しばらくはゆっくりできますよ。よかったですねぇ。」
「えっ、いやはぁっ?!よかったですねぇじゃないんですよ!あいなは今どこにいるんですか!あんなのが街に出てたりしたら、どうなるか…!」
「ふふ、心配性さんですねぇ。大丈夫ですよ。彼女は今、特別な場所にいるんですから。」
……まあ、こいつも一応神なんだし、ここまでいうなら大丈夫なのか…?
-まあ、いっか。
これは、あいなの口癖だ。何があっても、独りが怖くなっても、これで孤独を飲み流してしまう。
それがいいことなのか悪いことなのかは、よくわからないが、あいなといると、自然と、全てのことがどうでもよくなるのは、この口癖のせいもあるだろう。
でも、いまは、この口癖を利用させてもらう。あいな、お前は、あの子と以外ベタベタするのは嫌なんだもんな。
-まあ、いいじゃないか。あいながどうなろうと。自分が選んでしまったことなのだから。無意識であろうと、なかろうと。
「おやおや、酷いですねぇ。一緒に亜弥ちゃんと過ごした仲だというのに。」
「あんたに言われたくないっすよ…。それに、俺たちは、喋ったこともなかったんだから、他人も同然でいいんです。ってか、勝手に頭ん中覗かないで下さい。」
「そうなんですか…。」
「あんたは人間サンの関係に慣れすぎなんですよ。あいつらは、見知らぬ他人とくっつき過ぎなんだ。」
「そんなもんなんですかねぇ。」
「そんなもんなんですよねぇ。」
「あ、今わたくしの真似事しました?」
「ええ、しましたよ。偶には、こんな言葉の遊びもいいですね。面白かったですよ。割と。」
嘘ではない。これから、時々これで揶揄ってやろう。
「ええー、やめてくださいよぉ、似合ってないです。」
「だから頭の中読むなって…」
「そーそー。あなたは多少言葉が荒い方が人間味があっていいです。」
「人間味なんて欲しくないですよ。」
「えー、そうですかぁ。」
そう言って残念そうにけらけら笑う。だが、本当はこいつは、無邪気さを装っただけのイカレ野郎…もとい狂気の女神なのだ(そのままだったか?)
「…まあいいです。今回は、わたくしがこの役回りについてから18627回目のお仕事達成兼初めての成功例なんですから。少し気分がいいんです。」
「そんだけやってて、今回が初めての成功って…」
最早才能のレベルだな。そう思っていると、でも、とおもむろに女神さまが呟いた。
「失敗したときに、人生が狂ってしまった方々の絶望の顔も、なんとも堪らないモノですけれど。」
そう言って女神さまは頰を紅潮させ、目を細め、顔をとろんと溶かして笑った。
(この笑顔より恐ろしいものは、ないな)
「さぁて、次は、どなたにしましょうかぁ。うふふぅ。」
「…ほどほどにしておいた方がいいと思います。」
「うふふふ。」
…だめだ、これは聞いていないやつだ。
太一は、小さくため息をつきながら、今から壊されるであろう誰かの幸せを思った。
死にたい少女は孤独を呑む 遠江 葉織 @tooumi-haoru
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