ラブホから出たら写真を撮られた(有名人じゃないのに何で?)

したらき

読み切り

俺こと田沼吉人よしひとは、都内の有名企業に勤めている今年30歳になるサラリーマンだ。


半年前に大学時代からの友人である笠井雄介に誘われて参加した合コンで知り合った大垣千歳と数度のデートを経て、3ヶ月前に結婚を前提にした交際を始めてようやく地に足が着きそうと思っている。


今日も互いの就業後にディナーをしながら近々お互いの両親に紹介し合おうという話をまとめてからラブホへ行き、お互い愛を確認し合って名残惜しくも休憩時間が終わるタイミングでホテルを出た。



そんなラブホを出た瞬間にフラッシュを焚かれて写真を撮られた。


俺も千歳も有名人ではないので人違いだろうと思い、その男性に声を掛けようとしたら千歳が慌てて男性へ声を掛ける。



「雅之さん!これは違うのッ!」



「何が違うんだ千歳!」



どうやら千歳の知り合いらしい男性は能面のような無表情でありながらも得も知れぬ怒りのオーラを発しているし、千歳はとても怯えている。


『もしかして二股?でもストーカーということもあり得るし』と混乱しつつも、状況を確認しようと口を挟む。



「申し訳ないのですけど、私は状況がわからないので説明をしていただけませんか?」



静かに怒りを感じさせる男性に睨まれはしたものの、もしストーカーなのであれば俺が千歳を守らなければいけないので毅然とした態度を保つように男性の方を向く。



「本当にワケがわかっていなそうですね?私はそこにいる三嶋千歳の亭主で三嶋雅之と申します」



思わずポロッと「亭主?」とつぶやいてしまったが、確認を進めるために質問を返す。



「彼女は大垣ではないのですか?」



「それは旧姓ですね」と亭主を名乗る男性。これは浮気ですね。間違いない。なんだこれは・・・・・・たまげたなあ。


それを聞き千歳の方を見ると両手で顔を隠し「ごめんなさい」と小声で繰り返している。



「と、とりあえずここでは難なので場所を移して話しませんか?」




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



個室のある居酒屋へ移動し仕切り直すことに。


千歳とは半年前に合コンで知り合い、数回デートして3ヶ月前から交際を開始して、今日お互いの両親へ紹介しようという話をしたことを伝え、千歳が独身だと信じていたことも話した。


千歳はその間ずっと俯いていて話を聞いているのかもわからない状況。



「田沼さんは千歳に騙されていたみたいですね」



「残念ながらその様です。知らなかった事とは言え、本当に申し訳ないです」



「いやいや、ちと・・・その薄汚い女が悪いんですよ。むしろ真剣に結婚まで考えていた相手が妻だったことが申し訳ない。それで千歳。オマエはどう落とし前を付けるんだ?」



「ごめんなさい・・・ごめんなさい・・・」



「口先の謝罪なんかいいから、どうするのか教えてくれ。まぁ、俺はもうお前から慰謝料もらって離婚しか頭にないけどな。田沼さんも結婚はしないでしょう」



「そうですね。さすがに結婚していることを隠して婚活するような人とは無理ですね。なので、私はこの一件のケリが着いたら連絡も取らないようにしようかと思います。それはそれとして、千歳はどうしてこんな事をしたのかが気になりますね」



「それは・・・」



ポツポツと語りだす千歳。俺と出会った合コンはそもそも急に来れなくなった友人の代理で参加し、すぐに帰るつもりだったが話に出た俺の勤め先から三嶋さんより収入が多そうということで、乗り換えを企んだとのこと。


言われてみればデートの時のお金は全部俺が出していたし、婚約指輪も高級ブランドのものを欲しがり新婚旅行も欧州周遊がしたいと言っていた。どう見ても、金目当てです。本当にありがとうございました。



結局、念のため雅之さんと連絡先を交換したものの、三嶋夫婦とはこれっきり連絡は取らないで関係終了とすることで落ち着いた。


また、三嶋夫婦も離婚することにするらしいが、本音としては俺にとってはどうでもよいこと。


悪い女のせいで苦い経験をしたなぁと思いつつも珍しい経験でもあるなぁと自嘲しつつ、また雄介にでも合コンをセッティングしてもらおうかと考えながら別れの日を終えた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



別れの日から1ヶ月が過ぎて、雅之さんから電話があった。


できるだけ早いタイミングで千歳も合わせて直接会って話がしたいというので、電話をもらったその日の夜に会うことにした。



「実は千歳が妊娠していたんです」



脳が雅之さんの言っていることを拒否したがったけど、わざわざ呼ばれたということはと思い、思わず「それって、私のこどもなのですか?」と聞いたら苦笑いの雅之さんと表情が読み取れない千歳。



「半分はそうなのですが半分は違います」



わけがわからないよ。思わず高校時代に見たアニメの白いアイツを思い浮かべてしまったけど、本当に意味がわからない。


父親と母親で半分ずつと言うのはあるだろうけど、こういう時にわざわざ言うことではない。雅之さんと会うのは今日で2度目だけどこういうところでそんなくだらない事を言う人ではないと思う・・・としばし困惑してしまった。



「二卵性の双子で、ひとりが私のこども。もうひとりが田沼さんのこどもなんです」



「ファッ!?」



失礼ではあるけど思わず意味不明な言葉を口にしてしまった。


落ち着いてから改めて話を聞くと、先週千歳が兆候を感じ産婦人科に受診したら双子を妊娠していたことが発覚し、状況が状況だったので雅之さんとのDNA鑑定を行ったら別々の結果が出たとのこと。


さすがに千歳も雅之さんと俺以外とはこどもができることをしていなかったので、消去法で俺のこどもだろうと判断し念のため俺ともDNA鑑定をして欲しいというのが目的らしい。


そして、DNA鑑定の結果を確認してから今後のことを相談させて欲しいと言うのだ。


雅之さんから言われることには筋は通っているし異論はないが、とにかく気持ちの整理ができない。


そもそも確定はしていないのでDNA鑑定のサンプル採取だけして、次は結果が出てからということにした。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



結果は、やはりひとりは俺のこどもだったとのことで、これからについて相談することになった。



雅之さんは離婚せず千歳とこども達と一緒に暮らしていきたいとのことで、血の繋がらない俺のこどもも引き取って育てさせて欲しいという。雅之さんなら信頼できるとは思うものの、俺も自分のこどもとは一緒に暮らしたい気持ちもある。


でも、俺が引き取ると片親になってしまい不憫だし、だからといって雅之さんと離婚してもらうのも違うという感じで話していたら雅之さんから「吉人さんと千歳と私とこども達で一緒に暮らしませんか?」と言う提案をされた。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



結局、雅之さんの提案通り父親ふたり母親ひとりにこどもふたりで一緒に暮らすことにした。



俺の両親は最初難色をしめしたが俺と雅之さんで何度も実家へ行き気持ちをわかってもらい渋々だが認めてくれた。


雅之さんのご両親は千歳の浮気については腹を立てたものの俺との同居については歓迎してくれた。


千歳のご両親は雅之さんと俺に会うたび土下座を繰り返すほどだったが、「こどもたちにおじいちゃんおばあちゃんのみっともない姿を見せないで欲しい」という言い方でおさめてもらった。


雅之さんと俺は思いのほか相性がよくて言い争いひとつ起きないし、俺らに引け目がある千歳は不満がありそうな時があってもそれを俺らにはぶつけてこないので平和的な生活を送っている。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



そうして千歳の出産の時がやってきて母子ともに元気で、雅之の娘が先に生まれてお姉ちゃんとなり、俺の娘は妹となった。



時々奇異の目で見られることはあるけれど俺たちは幸せな家庭を築いている。


俺の娘の千歌ちかは当然、雅之の娘の千莉ちりも可愛くてしょうがない。



千歳の裏切りで始まった普通ではない日常だけど、普通の家庭生活よりも充実していると断言できる。それくらい幸せだ。



でも、娘たちには千歳と同じことはさせないようにするぞ!




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



<17年後の千歳の回想>


わたしが妙な欲を出し、雅之君を裏切り吉人さんを騙そうとしたことから始まった父2人母1人娘2人の家庭生活。


雅之君も吉人さんも性格が穏やかで優しい人達なのもあってギスギスした空気になることもなく、むしろ雅之君と吉人さんは無二の親友という感じで仲が良いし、娘たちもそんな父親達に対して血縁関係なくそれぞれ懐いている。むしろ、血の繋がりがないからか千莉は吉人さんにより懐いているし、千歌は雅之君により懐いている。


娘たちは優秀で都内でも学力が高いと評判の高校へ主席と次席で入学し、全国模試で常にトップ争いをするほど。見た目も身内のひいきなしで美少女と言ってよいくらい可愛いのもあって友達も多いみたいだ。


すごく恵まれているし贅沢を言ってはいけないのだけど、罪の負い目がわたしを蝕む。過去のことを掘り起こして来ることはないし、雅之君も吉人さんも結果オーライと思ってくれているけどそれが苦しい。


幸せだからこそ自分が作り出した家庭の形の歪さが棘のように感じるし、他人から向けられる目が怖い。


そんなことは絶対にないと思うけど、雅之君、吉人さん、千莉に千歌から見捨てられるのではないかという漠然とした不安感は拭えたことがないし、むしろ大きくなっている。




わたしは罪な女だから家族に捨てられても文句は言えない。だから幸せなら幸せなほど過去の罪が大きく伸し掛かる。100%自業自得なのだけど、一生この不安と付き合い続けないといけない・・・




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ラブホから出たら写真を撮られた(有名人じゃないのに何で?) したらき @kkak

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ