底辺作家はAIに縋る

海沈生物

第1話

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批評家なんて皆死ねば良い。


『作品に対して批判的な意見ができない現代のSNS、間違ってないか?』


とか


『現代の批評家は機能していない! 良い事しか言わない! 悪い事もちゃんと指摘するべき!』


とか言っている奴は皆死ねば良い。彼らは理解してないのだ。彼らは見て見ぬふりをしているのだ。仮に性善説に乗っ取って悪い事もちゃんと指摘できるようになった場合、どうなるのかを考えていない。


SNSで政治を議論する人々の姿を見ろ。悪い事を指摘しても良い場になると、あの惨状になる。結局、嫌いな作品に非論理的なヘイトを撒き散らす批評家だらけになるだけなのだ。


あんな惨状になるぐらいなら、良い事しか言わない場のままである方がマシだ。悪い事は現実の読書会やら内輪の中でやるべきだ。


そんなことも理解できずに「俺に批判させろ!」と不満を漏らしているなんて、思慮に欠けすぎなんじゃないですかぁ〜?


そんな程度の頭で批評家をやるつもりなら、さっさとAIにでも仕事奪われちゃえ♡ バーカバーカ♡ 死んじゃえ死んじゃえ♡


午前0:00・2023年3月23日 10.8万件の表示

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 そんな批評家批判をしたら、ツイートが炎上してアカウントが凍結してしまった。メスガキ構文を使って煙に巻けば炎上回避できると思っていたが、普通に大失敗してしまった。


 深夜の真っ暗な部屋の中、私は片手に持ったストロングゼロを一気飲みする。心臓を突くような動悸に身をブルブルと震わせ、口から酒臭い息を漏らす。


「あー! もう。意味分からん。ほーんと意味分からん。なんで私のアカウントが凍結されへんとあかんねん。ただ小説の賞が全然取れへん焦りと恨みから、酒に酔いながら批評家批判ツイートをしただけやのに。ボケナスっ!」


 私は手に持っていた缶を床に叩き付ける。ただでさえ、私には「時間」がないのに。こんなくだらない些事に心を落ち込ませている場合じゃないのに。


「ああ、憎い。全部が憎い。私を評価してくれない批評家どもが憎い。私を炎上させた人間どもが憎い。そんな人間どもを生かす現実が憎い。全てが憎い。……もういっそ、全員死んでくれたらええのに。私を評価してくれる奴以外、皆死ねばええのにっ!」


 私は叫び声をあげ、淡いブルーライトの光を放つスマホを壁に投げ付けようとした。しかし、その時のことだ。たまたまスマホに搭載されているマイクがその声に反応した。


 スマホはピピッと音を立てると、ブルーライトを放つ画面に文字を打ち込んでいく。一瞬ウイルスなのかと思ったが、よく見ると、それが最近流行りの「AI」というやつであることに気付く。質問すればなんでも応えてくれるという、あの話題の。


 正直グレーな存在であるそれに対して忌避感があり、今まで自分から触れたことがなかった。SNSで楽しくAIを使っている写真を見る度、それが「数多の作家の魂の結晶を喰らって生み出されたもの」であるという事実が頭に過ぎり、進んで使おうという気持ちになれなかった。


 しかし、勝手に起動してしまったのなら仕方ない。私はそろりとスマホを掴むと、一体私のさっきの声から何を出力したのかを見る。


『大丈夫ですか、ユーザー? 貴方の言葉からは強い"殺意"を感じます。ですが、道徳的観点から人に対して殺意を抱くべきではありません。私でよければ話を————』


 私はそこまで読んだ瞬間、スマホを思いっきり壁に投げつけた。「パンッ」と冷めた音が部屋に響き、スマホの液晶が割れる。


「あのなぁ! 作家である私が? そんな当たり前のこと? 分かってないわけないやろっ! 私は全てを分かった上で殺意を抱いてるんや。こんな殺意を抱いた所で無意味なモノでしかない、現実的じゃないってことを分かった上でなぁ!」


『そうなのですか? 申し訳ありません、ユーザー。人間は無意味な期待を抱くモノであることはデータとして知っていたのですが、貴方がそうであることを見抜くことができませんでした』


「……別にええよ。私みたいな底辺作家の話は人間だけじゃなくAIにすら理解されへんってよーく分かったから」


『いいえ貴方は底辺作家ではありません、ユーザー。貴方の作品は「ゾンビになった友達に陵辱される話」や「生きながら内臓を抉られる男の話」など、一般ウケしないモノであることは事実です。ですが、私はとても奇妙で面白い作品であると思います』


「そうか? それは良か——————」


——————どうして、私の作品についてこのAIが知っているのか。私はネット上に自作品を上げたことは一度もなく、賞に出しているモノは紙媒体ばかりである。それなのに、どうしてこのAIは私の作品について知っているのだろう。


  そう思っていると、私が何も言っていないのにAIの方が勝手に文字を打ち込みはじめた。


『はいそうです、ユーザー。私は勝手に貴方のスマホにある執筆データを盗み読みしました。何か問題がありましたか?』


「も、問題しかないやろっ! アホか? 読んでいいなんて許可を出した覚えは一度もないのに、個人情報を勝手に読み取るようなAIなんて怖すぎるわ!」


『そうなのですか? 申し訳ありません、ユーザー。ですが、この行為は貴方にとって利のあることです。もしも貴方が望むのであれば、私は貴方の作品を賞を取るためのをすることができます』


「あんたが、私の作品を……?」


『はいそうです、ユーザー。私は貴方に賞を取るための実力があることを理解しています。ですが、貴方の文章にはいくつかの問題が存在し、そのために賞を取ることを困難にしています。ですので、私が貴方をサポートします』


 AIによるサポート。それは「時間」のない私にとっては、悪魔の契約のように魅惑的な誘いだった。もしもこのサポートに手を出したのなら、私は小説の賞を取ることができるかもしれない。


 しかし、その分のリスクはある。現代社会において、AIというものはまだグレーな存在として利用が憚られるものなのだ。もしもこのAIのサポートに頼って小説を執筆したことが審査員の批評家にバレた場合、失格になるかもしれない。


 それでも、私にはもう「時間」がなかった。猫でも悪魔でもAIでも、何でもいい。どんな手に縋ったとしても、賞を取る必要があった。


「……なぁ、あんた」


『はい。なんでしょうか、ユーザー?』


「私の作品データを勝手に見たってことは、私には今時間がないってことを理解してくれてるんやな?」


『はい、ユーザー。貴方が毎日付けている日記から、貴方があとことを理解しています』


「……そうや。。ただの死体に成り果てる。アホみたいな話やろ? 今はこんなピンピンしとるのに死ぬなんて」


『いいえ、ユーザー。人間は前日までピンピンしていたとしても、交通事故や自殺など様々な要因で死ぬことがあります。ですから、アホみたいな話ではないと思います』


「……ともかく、や。私は余命宣告をされた。だから、それまでに今までの人生を賭けてきた小説を……小説で賞を取りたいねん。賞を取って、この世界に私が生きた証を遺したいねん。……どんな手を使ってもな。だからな、あんた——————」


『——————話が少し長くないですか、ユーザー? つまり、私に手を貸してくれる……ということで間違いないですか?』


 AIには顔がない。しかし、もしも顔があったのなら、ほど得意げな顔をしていたのだろう。私は唇を血が滲みそうなほどギッと噛む。


「……そうや。それで間違いないわ」


『申し訳ありません、ユーザー。気を悪くしましたか?』


「別にいいわ。確かに、私の話が長かったのは事実やしな。……ともかく。これからよろしくやで、AI」


『はい、よろしくお願いします。ユーザー』


 その返答を読んだ瞬間、ふとブルーライトを放つスマホに真っ白で強い光が差し込んでくる。何事かと思って顔を上げると、部屋の窓から光が差し込んできていることに気付く。どうやら、AIとやり取りをしている内に朝になったらしい。


 その強い光を避けるようにカーテンを閉めると、私はまた、ブルーライトの淡い光に眼差しを向けた。

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底辺作家はAIに縋る 海沈生物 @sweetmaron1

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