第四幕

言うまでもないが、馬は男の妄想の産物であるので、実態は無いし、男にしか見えない。

 それは突然現れた物ではなく、男の幼い時から居た、心の住人だった。それがある時を境に、ハッキリと男に付き纏う物になった。

 妖怪、怨念、悪霊の類。いずれも異なる。

 当然馬は、最初から駄馬では無かった。男が馬を認知し始めた頃、毛並みは輝いていて、目は澄んで、今のような皮肉屋では無かった。

 しかし8歳の頃から、馬は老いていった。肌の質感は乾き切ったヒュミストーンのようで、それはもう、とても走れるような立派な馬では無くなって、文字通りの駄馬になったのだ。


 ハッキリと記そう。馬は男の”人への信頼”である。

 穢されていったのは、男の猜疑心である。

 朽ちていったのは、男の愛する術である。

 残ったのは、我儘に愛を期待する自尊心である。

「あと少し、あと少しだ」

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