第二幕
「君は、欲しいものを聞かれてすぐに答えることができるかい?」
馬はうたた寝していたのか、ムッとした。
「なんだ急に、馬鹿の哲学ごっこが過ぎるぜ」
「確かに僕は大馬鹿かもしれんが元来哲学は、、」
馬はうんざりして
「悪かったよ、話を戻そう」
「そうだ、これは生きる目標みたいなものだと思うんだ。俗物的な物でも、抽象的な物でも、すぐに答えられる人はエネルギーがある”満ち足りている”人だ。逆に欲しいものが何も無い人って言うのは、”枯れている”人だと言える。満足した人が言う”何も欲しく無い”は本質的じゃ無いんだよ、すぐに何か欲しくなるエネルギーがその人を満たしているだろう」
「そうかね、常に何か欲しい奴ほど不幸せじゃないか。厄介な欲望ってのが、金のやっかみを持ってきやがる。俺は何もいらないから、生きていて何も無い、それで良いじゃないか。お前はどうなんだ?欲しいものでもあるのか?」
男は少し黙って、右にウインカーを出して言った。
「僕は、早く死にたい」
馬は咳のような笑い声を立てた。
「何も、青少年の自殺を肯定する訳ではないがね。早死の美徳を信じているだけだ。長寿健康は以ての外、WHOとおんぶに抱っこはゴメンだね」
「可笑しい奴だ。よっぽど未来に展望が無いと見た!こんな陰鬱な文句は無いぜ」
「何、金に困っているわけでも、重い病気があるわけでも無いのに何故かそう思うんだ。どうしても、未来に責任を持つことがくるしい、難しい事に思えてならない。父さんが良く『俺はお前の将来のために貯金してるんだぞ!お前が生まれてからは酒も控えて、タバコもやめた』って言ってたっけ。僕はそれが耐えられない。べつに大いに酒も飲むし、タバコも吸うがこれは依存してるわけでは、いや依存もしているけど、それ以上に早死してしまいたい。未来に、と言ったが、僕は人に責任を持てない」
「曰く家庭の幸福は、、ってヤツか。良い趣味だね。よっぽどお前は親父さんに似なかったと思える」
男は黙ってしまった。
トランクにしまったシャベルがカタカタと揺れている。
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