六十 蘭の思惑
翌朝。彩芽は胡蝶館女学校へと向かっていた。
親には「買い物に行く」といって出てきている。
蘭は本当に校門で待っているのだろうか。
もし本当に濁悪の仕業だったとして、彩芽たちに校長を助けることなどできるのだろうか。
そう自問自答しながら、彩芽は学校までの並木道を歩いていた。
今年は暖かいからか、もう桜が咲いてきている。入学式の時のような一面ピンク色の絨毯ではなかったが、地面がぽつぽつと薄紅色に染まりつつあった。
校門が見えてきた。その前には、少女が立っている。蘭だ。
彩芽は駆け出した。
「蘭ちゃん!」
「来てくれてありがとう。早速だけど、
蘭は既に変化しており、祓魔具の顕現も済ませていた。
「⋯⋯うん」
彩芽は割れんばかりに祓魔石を握りしめ、変化する。そして、祓魔具を顕現した。
「行きましょう」
蘭が先に立った。
「ねぇ、そもそも校長先生ってどこにいるの?」
「それは大丈夫。既に何箇所か目星をつけているから、探しましょう」
彩芽の問いかけに蘭は答えた。
「じゃあ手分けして⋯⋯」
「それはダメ」
即座に遮られた。
「犯人が潜んでいる可能性がある以上、一人で行動するのは危険だわ。効率は悪いけれど、二人で探しましょう」
「分かった。最初はどこ?」
「視聴覚室よ。今は使われていないから、こういうことに使うにはちょうどいいわ」
視聴覚室。胡蝶館女学校でかつて使われていた教室である。今は使われなくなっており、部屋だけが放置されている。校舎の隅にあるのも相まって、誰も近づかない場所だ。
二人は昇降口に入った。鍵は開いていた。
引き戸を閉める時、少し大きな音を立ててしまった彩芽は思わず辺りを見回した。
「⋯⋯誰も、いないよね?」
彩芽は小声で尋ねる。
「恐らく。気づかれた様子もないわ」
蘭も小声で返した。
「良かった⋯⋯」
彩芽はほっと胸をなで下ろす。
あとは視聴覚室を目指すだけだ。
視聴覚室は二階にある。職員室と同じ階だが、全く逆の方向にあるため、誰にも見つからずにたどり着ける可能性が高い。
二人は、教員に見つからないよう視聴覚室を目指した。
「ここだね」
「ええ。入りましょう」
蘭がドアに手をかける。予想に反し、鍵は開いていた。
「誰かいますかー?」
部屋を歩き回りながら問いかけるが、返事はない。
「いませんかー?」
もう一度問いかけたが、結果は同じだった。
「返事ないね。やっぱり誰もいないのかな」
「そう考えていいと思うわ。隠れられるような場所も特にないし、次にいきましょう」
「次はどこ?」
「音楽室よ。防音設備があるから、もし校長先生が悲鳴や大声を上げたとしても、気づかれるリスクを軽減できるわ」
「よし、行こっか」
音楽室は三階にある。
二人は階段を上り、音楽室へ向かう。
「着いたね」
「ええ。開けるわよ」
音楽室も鍵が開いていた。
こちらもくまなく調べたが、やはり誰もいなかった。
その後、二人は教室、図書館、自習室、果てはトイレの個室まで調べたが、加賀美校長はどこにもいなかった。
「あとはどこ?」
廊下の隅に座り、彩芽は尋ねる。
「これで全て探したと思うわ。どこにもいらっしゃらなかったから、あの脅迫状自体が嘘だった可能性があるわね」
「そうかなぁ⋯⋯」
彩芽は、とても嘘だと思えなかった。
第一、犯人だと知られた場合のリスクを背負ってまですることとは思えない。
リスクと行動を天秤にかければ、リスクが勝つはずだが、犯人は行動を選んだ。そこまでする理由は何なのだろうか。
まだ探していない部屋などあるはずがない。
ほぼ全ての部屋を探してもなお、加賀美校長はいなかったのだから、本当に嘘だったのかもしれない。
「まだ、探してない部屋⋯⋯」
彩芽はつぶやく。どこか、とても重要な場所を忘れている気がしていた。
その時、彩芽はひらめいた。
──ある。一箇所だけ。
「⋯⋯講堂」
「え?」
「講堂だよ、蘭ちゃん! まだ探してない部屋で、しかも防音設備があるとこ!」
「確かに⋯⋯!! どうして気がつかなかったのかしら。行きましょう!」
彩芽たちは弾かれたように立ち上がると、講堂へと駆け出した。
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祓魔少女 卯月みお @mio2041
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