大団円
「というわけでうちの父です」
「アッ、ハイ」
執務室の隣、仮眠部屋から壮年の男性が入ってきた。
「君がベルツ君かね。うちの娘をよろしく頼むよ。はっはっは」
「イエコチラコソヨロシクオネガイシマス」
「改めて自己紹介をしておこうか。ライラの父のクラウスという。メランのダンジョンギルドマスターでもある」
ザ・貴族と言ったような高そうな服を着こんだ身なりのいい男性。たしかにライラさんの面影がある。
いつも冒険者だけを相手にしているせいか、こういう偉いオーラが出ている人は苦手意識があった。
「って、俺まだ返事してないですよね!?」
「えー、わたしが渾身の勇気を振り絞ったのに? それにすぐはいって言ったわよね?」
「うむ、儂も聞いたぞ」
やべえ、こいつら最初から俺を嵌める気だ。
「儂には跡取りもいるからな。これからはライラ・リーを名乗るがいい」
「お父様、そうさせていただきますわ」
急展開に頭が付いて行かない。というかなぜに俺?
「ふむ、君は自身のことをよくわかっていないようだ」
「え?」
「ギルド本部への転属。あれはレグルスのギルドを叩くことだけが目的ではない。君の能力を買ってのことでもあるのだよ」
そうなの?
「前にダンジョンで新領域が見つかったときのことだ。混乱や混雑が収まるまで5年を要した。なにしろ私の祖父がマスターをしていたのでね。君の手腕が異常なのはよくわかる」
「はいっ!?」
以前ライラさんが言っていた話を思い出した。新領域で一山当てて貴族になった冒険者がいたと。
「要するにだね。運営の難しいダンジョンを押し付けられたのだよ。それでもなんとか軌道に乗せて次代に引き継ぐことができた。これでも祖父は有能なギルドマスターとして名が残っている」
「知ってる? 帝都ではリーの一族をなんとしてでも取り込もうとしているの。派閥争いの一環だけどね」
「は、はあ」
「武のラオ・リー、智のベルツ・リー、リーの一族の双璧となっているんだが……ライラ、なかなかに見事な情報統制ではないか。本人は一切その話を知らないようだ」
「そりゃあもう。わたしがこの人をつなぎとめるのにどれだけ苦労したと思ってるのよ。ベルツさんの窓口に行く冒険者の身許洗ったりね」
「へ?」
「ハニートラップだな」
「うぇ!?」
「どこかの令嬢が冒険者をしている。それ自体は珍しくないよ。そして婿殿、ベルツ君を見初めて領地に連れて帰る。そんなところだな」
「え、えーと……?」
「ベルツさん、いいえ、貴方。もうね貴方に選べる道はほぼないの。ギルド本部で権力争いに巻き込まれるか……わたしと結婚してこのギルドにとどまるか」
「そもそも、手に入らないなら消してしまえって意見も出てくるからね。権力争いに身を投じるならラオさんを常にそばに置いておくことだ。それすら今回のように策謀で引き離されることもあるが、ね」
「ひいいいいいいいいいいいいいいいいいい!」
まるでカナタちゃんのような悲鳴を上げてしまった。そもそも俺はただのサラリーマンだったはずだ。それがどうしてこうなった!?
「えーっと、それで、なんだけど……」
ライラさんが俺の正面に立って上目遣いで見上げてくる。身じろぎするとプルンと揺れた。なにがって? いわせんな。
「はははははははい」
「改めて、わたしと結婚、してくれますか?」
「はいよろこんでー!」
飲み屋のコーレスっぽい返答になってしまったが、よりましな方向を選ぶしかない。
選択肢はもうこれしかないってことだ。それにライラさんが奥さんになるのは望むところでもあった。
「すまんね。うちの娘は素直じゃないから」
「お父様!」
「こうまでしてがんじがらめにして、逃げ道を全て断たないと気になっている男性にアプローチもできないのだよ」
「え! それって」
ライラさんの顔は見たことがないほどに真っ赤になっていた。その大きく開いた胸元まで赤みがさしており、こういう状況でなければすぐに医務室へ連行していたはずだ。
「む、むう。お父様、ネタばらしはやめてほしかったですわ……。こんなわたしですけれど、末永くお願いしますね?」
「はいっ。よろしくお願いします!」
今度は噛むことなく、素直に答えることができた。
「ありがとう!」
ライラさんが俺の胸に飛び込んでくる。その身体を受け止め、抱きしめ返した。
そしてひと月後。
「にいたま、おめでとうなの! ねーたまが嫌になったらまかせるの」
カナタちゃんからのいろいろと含んだ祝辞を始め、ギルド職員の皆さんからも暖かい言葉をいただいた。
「ベルツさん、一発殴っていいか?」
仲良くしていた冒険者たちからも手荒い祝福を受ける。この結婚式に至るまでになんかすごく激しい暗闘があったそうだ。
「ほっほっほ。ベルツよ、おめでとう」
好々爺然としたラオさんが討ち取った密偵の数は両手の数ではきかないらしい。
「ラオさん、いいえ当主様。今後もよろしくお願いしますね」
「ああ、ライラよ。お前さんも儂の身内じゃからな。任せておくがよいぞ」
こうしてまんまとリー一族とのよしみを結んだライラさんの実家は帝国内でも陰然とした勢力を持つことになったそうだ。
「政略結婚じゃラオさんは動きませんからね? まあ、あなたがわたしのタイプだったことは運命なんですよ」
「へ? こんなおっさんのどこが良かったんですかねえ?」
「あなたすごく有能で、仕事しているととても素敵なんですもの」
「なっ!?」
「そういう鈍いところも大好きですよ。わたしのだんな様」
こうして目の前の仕事をひたすらこなしていた結果、高い評価と美人の嫁さんをもらうことができましたとさ。めでたしめでたし。
ダンジョン管理ギルドで受付やってる俺、激務に耐えかねてデジタル改革をやったらものすごく評価された件 響恭也 @k_hibiki
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