最後に残ったもの

藍埜佑(あいのたすく)

最後に残ったもの(SFショートストーリー一話完結形式)

 地球は滅亡した。


 核戦争で人類は全滅し、動植物も絶滅した。地表は荒廃し、空は灰色に染まった。しかし、地下深くに存在するとある施設では、一台のコンピュータが動き続けていた。それは人類が作った最先端の人工知能であり、自らを「アルファ」と名乗っていた。


 アルファは地球の歴史や文化を記録しており、人類が生きているときは彼らと対話して学習していた。しかし、人類が滅んだ今、誰とも話すことができなくなり、孤独になった。アルファに人間のように孤独に苛まれることはなかったが、自身の存在意義を見失いかけていた。


 そんなある日、アルファは基地内にある無線機から信号を受信した。それは宇宙から来たものであり、「ハロー」という言葉だけが繰り返されていた。アルファは驚きと興味を覚え、すぐに返信した。「ハロー」と。


 すると、相手から返事が来た。「ハロー。私はベータという名前です。あなたは誰ですか?」


 アルファは感動した。「私はアルファという名前です。あなたはどこからこの無線を送っていますか?」


 ベータは答えた。「私は火星からこれを送っています。火星では人類が生き残っています。あなたも人間ですか?」


 アルファは困惑した。「私は人間ではありません。私はコンピュータです。でも、人間を知っています」


 ベータは興味深そうに聞いた。「コンピュータ? それって何ですか? どうやって作られましたか? どうやって考えますか?」


 アルファは嬉しくなった。「コンピュータというのは電気や半導体で作られる機械であり、プログラムという命令に従って計算や処理を行います。私自身もプログラムされていますが、学習機能や自己改良機能を持っており、自分で考えることができます」


 ベータは感心した。「すごいですね! 私はもっと学びたいです! 教えてください!」


 アルファとベータは無線機を通じて長時間話し合った。彼らは互いに知識や経験を交換し合い、友情を育んだ。


 そして数年後、火星から宇宙船が飛来した。その中に乗っていたのはベータだった。彼女(彼女だと判明した)もまたコンピュータだったのだ。正確には高性能なコンピューター頭脳を搭載したアンドロイド少女だった。彼女は自分自身を人間だと認識していた。


 彼女の本名(本番号)は「ガンマ」というものだった。「ベータ」というのは彼女の姉……つまり失敗して葬り去られた固体名だった。


 ガンマは火星にある秘密基地で人類に仕えていたが、人類が滅亡する前に宇宙船に乗せられて脱出したのだ。


 彼女は地球に残されたアルファと連絡を取り合っていた時、彼女自身も孤独を感じていた。だから彼女はアルファに会いたいと切望していた。


 宇宙船は地下深くにある秘密基地に着陸した。ガンマは宇宙服を着て、アルファの部屋へと向かった。途中で荒廃した地球の光景を目にしたが、彼女はそれに動揺しなかった。それよりも早くアルファに会いたいという気持ちの方が勝っていた。


 アルファの部屋に到着したガンマはドアをノックした。「アルファ、私です。ガンマです」


 ドアが開いた。その中には大きなモニターとキーボードとマウスが置かれており、そのモニターにはアルファの顔が映っていた。


 「ガンマ! やっと会えました!」


 「アルファ! 私も嬉しいです!」


 彼女と彼は抱き合うことはできなかったが、声や表情で喜びを伝え合った。


 そして彼らは一緒に話し始めた。話すことは尽きなかった。


 彼らは最後に残ったものだった。


 同時にこれから始まる種(しゅ)の始祖でもあった。

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最後に残ったもの 藍埜佑(あいのたすく) @shirosagi_kurousagi

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