The last case 彼方の星海、銀河の夢

「こっちはこれで完了、っと!ええっとぉ?次はなに?」

〈こちらです。報酬額は高いのですが、内容が理解できません。〉

「は?理解できない依頼って何よ?」


渋い顔をしたユメからデータをタブレットに転送させる。

そこには、理解不能な依頼が表示されていた。


「・・・・・・もふもふな惑星を造ってほしいぃぃ?なんじゃこりゃ?って報酬額!」


意味不明な要望が書かれた依頼書の下には相場の十倍以上の報酬額。

明らかに普通ではない依頼である。


「こりゃ、受けるしか無いでしょ!って言いたいけど、要望が抽象的ぃ。」


困り顔をしながらもカナタは出来る限りの事をすると決めた。


全ては巨額の報酬の為である。




先の鯨の一件。


惑星系外基地へ帰還してすぐに、管理局へ報告とデータ提供を行った。

それから事情聴取と確認におおよそ一ヶ月。


果ては地球の宇宙管理局本部へ出頭を依頼される。


そんなこんなで色々やっていた所、報道で情報が全宇宙に広まったのだ。


カナタは一躍いちやく、時の人。

それ以来、半年ほど仕事は引っ切り無しに飛んでくる。


困難な事例が非常に多いのだが、その分報酬も大きい。


滅茶苦茶忙しくとも、カナタとユメは充実した毎日を送っていた。




開拓する惑星を選ぶ。

もふもふを依頼された以上、地球型である事が必要だろう。


続いて、惑星の環境開発。

多種多様な自然があった方がそれっぽい存在を作れると仮定した。


高い山と深い谷、広い海に広大な平野。

とりあえず、自然はこんなものだろう。


「しっかし、もふもふ?うーん、生物の毛を長くして柔らかくすればいいのかな?」


ぱぱぱっ、と作戦本部でキーを打つ。


〈それだけでこの報酬額を出すでしょうか。〉

「あー、確かに。この程度なら格安で請け負う所ありそうだしね。となるとー。」


うーむ、とカナタは唸る。


単純に動物を造るだけならどうとでもなるはず。

だが、それでは見合わない報酬額。


となると、技術的に難しいものを造ってほしい、という要望だろう。


「・・・・・・まさか、もふもふの知的生命体が欲しい、って事?」

〈それは、禁止事項では?〉


カナタは思い当たった事を渋い顔で口にした。


知的生命体が存在する惑星を開拓するのは禁止されている。

同時に、人為的に別の知的生命体、つまり人間に近い存在を造るのも禁止。


となると、この依頼は断るべきだ。

世間の注目が集まっている所で、法をおかすのは自殺行為に他ならない。


「いや、待てよ?上手くやれば・・・・・・。」

〈やめて下さい、私はまだスクラップになりたくはありません。〉

「いやいや、犯罪をやろうってわけじゃないって。」


ユメの苦情をカナタは否定し、更にキーを叩いた。


スクリーンに表示されていたデータが書き換わり、彼女の構想が表示される。

それを確認したユメは納得し、賛同した。


謎の依頼に対して、惑星開拓が開始される。




〈依頼主からメッセージが届きました。〉

「お、もふもふのおじさん。」


先日開拓した、もふもふ惑星の依頼主からのメッセージである。


『マーヴェラス!素晴らしい!最ッ高の惑星開拓技師だ!キミは!間違いなく!』


依頼主の興奮がよく分かる、乱れに乱れた文章。

途中から解読不明な文字列に変わっているが、ご満足いただけたようだ。


カナタが造った惑星は、惑星自体が毛むくじゃら。

地表に降り立てば、全方位もっふもふの星である。


〈あれで良かったのですね。〉

「半分自棄やけだったけど、上手くいって何より!」

〈・・・・・・自棄だったのですか?〉

「あ。」




かつて人は夢を星に祈った。


人は遠い空を飛ぶ事を夢見た。

人は空を自由に飛んだ。


人は遠い宇宙へと至る事を望んだ。

人は宇宙へ勢いよく飛び出した。


人は遠い夢を叶える事を願った。


人は、宇宙そらのカナタにユメの惑星ほしを得た。

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宇宙の彼方 夢の惑星 和扇 @wasen

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