44.合流

 ユカリと一緒に洞窟を脱出し、山の森の中に出た。ルビーのいる場所がどこかわからないが、少なくとも山を降りているのは間違いない。


『ユイト、聞こえるか』


 スフィさんからのバイオフォン通信だった。


「スフィさん! はい!」

『そうか、遂に倒したんだな。カジャロプを』


 先ほどまで、エキドゥナの蔦のドームの影響で繋がらなかった通信が、また繋がっている。


「スフィさん、ルビーは?」

『今、ダ・シガーの亜人と交戦中だ』

「ダ・シガー本人は?」

『……亜人を置いて逃げた。今度こそ捕まえられると思ったんだが』

「でも、ルビーを助けて山を下りれば目的は達成です」


 今回の目的は亜人の解放と亜人売買の摘発だ。この山で、違法に亜人が扱われていた証拠の映像を、通信遮断の効かない山の外まで行って当局に送れば、目的は達成する。


「それにあいつはカジャロプとエキドゥナも失った。逃げたところで、もうこれまでのような亜人売買はできない」

『……ああ。そうだ、その通りだな。もうこれで戦いは終わりだ』

「はい」

『ルビーのいる方角に案内する。そのまま西に向かえ!』


 僕はスフィさんの指示に従い、山の中を飛んだ。ユカリもそれにしっかりとついてくる。


「ユイト、あそこ!」


 最初にルビーに気づいたのはユカリだった。山の中、辺りを木々に囲まれたところで、ルビーが一人で亜人たちと戦っている。


「行こう、ユカリ」

「うん」


 僕とユカリは、ルビーのもとへ急いだ。カジャロプを倒した今、亜人たちは大した脅威じゃない。


「ルビー!」


 僕は一人で戦うルビーに呼びかけた。その声に気づき、険しい顔で亜人の攻撃を凌いでいたルビーが、顔を輝かせる。


「ユイトさん! よくぞご無事で!」

「ルビー、ちょっと伏せて!」


 僕はルビーに襲い掛かる亜人に向けて、拳を振るった。さっきカジャロプに放ったように、拳に炎を纏うイメージをする。そして拳を亜人に向けたその先に炎が一直線に進む想像をする。僕もイメージ通り、炎は亜人の一人に向けて放出された。


「がはっ!」


 亜人が僕の放った炎によって拘束される。これは良い。今までのように、口から炎を吐くよりも何倍も使い勝手が良い。


「なら、こういうのはどうだ?」


 僕は更にイメージする。僕の握るその拳の先に、細長い炎の鞭が伸びた。

 イメージによって炎の形を変えるのには慣れた。なら、その炎を鞭のように振るえば、より広範囲の亜人を拘束できる。


 直前に、エキドゥナの蔦を見ていたことも幸いした。あの動きを模倣すれば良い。


 僕とユカリめがけて、森の中から何体もの亜人が襲い掛かる。それを僕は炎の鞭を振り回して、触れる先から拘束していった。


「ルビー、行って!」

「はい!」


 ルビーには先に山を下りてもらって、亜人売買の証拠映像を送信してもらわなくてはならない。

 亜人の刺客が後どのくらいいるのかは定かではないが、これなら楽勝だ。


 —―そう思った矢先だった。


 僕の言った通りに走り出そうとしたルビーがその場で立ち止まる。

 何事かとルビーの目線の先を見る。そこには一体の亜人がいた。この期に及んでしつこい。僕は炎の鞭を振るう。だが、その亜人は鞭を避けてこちらを睨みつけた。


 多少すばしこいようではあるが、カジャロプに比べたら――。


「なにあれ?」


 ユカリがつぶやいた。

 僕の炎の鞭を避けた亜人、それをじっと睨みつけている。


 亜人の手に、注射器のようなものが握られている。そしてその亜人は、炎の鞭を避けてすぐに、それを首筋に向けて打った。


「ユカリ。ルビーと一緒に逃げて!」


 僕は咄嗟に支持を出す。

 ユカリは頷いて、ルビーを抱きかかえた。


 注射を打った亜人の様子がおかしい。その亜人は、僕を気にすることなく、一直線にユカリとルビーを追いかけようと駆け出した。


「行かせない!」


 僕は鞭を縄のようにして亜人に向ける。だが、炎は亜人を拘束せずに跳ね返された。


「なんで!?」


 炎の拘束が効かないことに一瞬判断が遅れた。

 亜人がユカリに追いつき、そのまま掌でユカリの頬を叩く。


「痛っ!?」


 ユカリは亜人に叩かれると、そう口に出し、そのまま体をグラつかせる。攻撃が効いている。いや、亜人の攻撃は多少なりとも悪魔には効く。だが、それにしても効きすぎじゃないか?


 頬を叩かれたユカリは光の棍棒を顕現させて、亜人に反撃を試みる。だが、亜人はその素早い動きで、またもその攻撃を避けた。


 そしてまた、ユカリの頬を叩いたのと同じように掌を構える。

 狙いはルビーだ。正確には、彼女の持っている、証拠映像のある端末。


 おかしな点はあるものの、時間さえあれば倒せる相手ではあると思う。だが、守らなければいけない分、こちらの分が悪い。

 僕は翼を広げ、ユカリとルビーのもとへ飛んだ。

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異世界に召喚されたら主人に絶対服従の悪魔でした✩ 宮塚恵一 @miyaduka3rd

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