番外 天使の告白

 どうしたの。眠れないの?

 ホットミルクでも作ろうか……もうそんなに子供じゃないって?

 ふふ。確かにだいぶ大きくはなったけど。

 なに? 改まって。

 ……仕方ないな。少しだけだよ? 君が今夜のことを誰にも言わないと誓うなら、答えてもいいよ。


 最後のゲームにしようと提案したのは僕。

 もちろん、彼も同意したとも。無理強いなんてしないよ。

 嫌なら「最後にしたくない」って言えばいいだけだもの。ふふ。そうだね。彼は言わないだろうね。

 おっと。それで怒られるのは心外だなぁ。僕だって色々考えて……そうそう。長い付き合いだから、なんとなくわかるけど、やっぱり絶対じゃない。僕は嘘は言わないって言ってるんだから、気になるんなら聞けばいいだけの話でしょ。


 ああ。もう。君はいつでも彼の肩を持つよね。

 まあ、おかげで彼の嘘が嘘だってよくわかるようになったから、あんまり文句も言えないんだけどさ。

 ……え? そろそろ許してあげたら、だって?

 冗談じゃないよ。彼にはもう少し反省してもらわないと。僕がどんなに傷ついたか……

 ん? そうだよ? 君と一緒。

 今回のことだけじゃないけど。

 彼は何度か勝負の結果を誤魔化してるしね。

 そうだよ。ひどいだろう?

 あ。うぅんと、正確には、勝者の特権を利用して、勝敗結果を逆に思い込ませた。んだけど。

 それだってさ、僕が受け入れてもいいと思ってなければ成立しないんだよ。そういうの解ってると思ってたんだけどな。何かの拍子に僕が思い出して怒ってもいいと思ってるのが腹立つよね。

 え? 何?

 そうそう。僕が勝ったことにするの。何故って……何故だろうね? そういうこと、訊いてもちゃんと答えないし。

 でも、勝敗はほぼ五分になってたから、勝ち越したかったからとか、負けてやってたとかそういうんじゃないとは思うよ。だから僕もそういうことにしてあげてたんだし。


 どうして思い出したのかって……うーん。それはあんまり言いたくないんだけど。

 ざっくり言うなら、信頼が揺らいだから、だろうね。

 あー。いや。今は、もう、大丈夫。

 だから、そのことには触れないでいるんだし。

 え。赤い? き、気のせいだよ。珍しいとか、そんなことないから!

 まったく。君ときたら。いつの間にか僕たちをからかうことまで覚えて……


 ……本当はね、君が彼にあんなに懐くと思ってなかったんだ。

 僕だけじゃないよ。彼も思ってなかった。

 僕はこの勝負譲りたくなかったし、彼はたぶん、最初から勝つ気がなかった。

 それなのに、いつの間にか二人とも君を楽しませるのが楽しくなってた。膝で眠る君を見る彼も、心からゲラゲラ笑う彼も、僕と二人でいる時には見せない顔をしてた。

 ああ、だからね。内緒だよ? 僕は時々君が羨ましかったんだ。もしも、あのまま何も起きなくて、君が彼を選んで、彼と暮らすことを願っていたら、僕はしばらく立ち直れなかっただろうな。大好きな二人を祝福してあげられない自分に嫌気がさしてね。

 内緒だってば。

 訊かれるまでは、言うつもりはないんだ。

 君は気付いても、彼はそうじゃないよ。変なところで卑屈なんだ。困ったことに。


 時の流れは速いよね。

 小さかったティエラがこんなに大きくなって。

 これからどうするのかって?

 君が寿命を迎えるまでは変わらないかな。たぶん、彼もきっと。

 その後は……そうだな。僕も世界を産もうかな。空と海と大地のある世界を。

 あれ? 言ってなかったっけ?

 僕らの種族は子を産まないけど、一生に一度ひとつだけ世界を生み出せるんだ。どんな世界がいいか見学して吟味して、覚悟が出来たら生命エネルギーまで使ってね。だから、人のように成熟するまで見守ることは出来なかったりするけど……

 ふふ。君が寿命を迎えた後だってば。それに、この世界にはヒントも沢山転がってたし。

 ひとりで産むなら全てを賭けなきゃいけないけど、ふたりならもしかして初めての人類として命を全うするくらいは残れそうかなって。

 そうしたら、ティエラ。君ともまた逢えるかもね。まあ、まずは相手を説得しなくちゃいけないんだけど。


 さあさあ。そろそろ本当に眠らないと。

 目の下にクマのできた花嫁はいただけないな。お相手も心配するだろう?

 明日はあいつの泣き顔が拝めるかもしれないね。泣かせる台詞は考えたかい? 自分が泣きそう? 困ったね。でも、いつでも帰ってきていいんだし。僕らはここにいるから。

 ……うん。いいよ。君の寿命が来るまで、勝負はまだまだ続けるよ。

 だから、安心しておやすみ。


 おやすみ。ティエラ。

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嘘つきな鱗と譲れない翼 ながる @nagal

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