俺が生きている言い訳

脳幹 まこと

俺が生きている言い訳


「あなたが生きている理由は何」と聞かれたら、アンタだったらどう答える?


 俺は今までそんなモンなかった。強いて言うなら「死んでないから」くらいだった。


 でも、ようやく答えが出た。そういう話を今からする。

 最初に言っとくけど、すごいバカバカしいぞ。



 思えば、当時の俺はしんどかった。


 別に借金漬けになったりとか、厄介な連中に絡まれたりとかってわけじゃないんだ。

 ただ……自分が空っぽというか……独り身だったし、取り立てた趣味も夢もない。ぶっちゃけ、いてもいなくても変わんねえだろってな。


 他の奴らは幸せそうに見えるし希望もありそうで、それにひとしきりムカついたあと、げんなりすることの繰り返しでな。


 こんなのがあと何十年も変わらず続くんだろうって思うと気が滅入った。



 だからな、自分の手ですっぱりと幕を下ろすことにしたんだ。

 山に登って、崖から飛び降りるっつーすげえベタなやり方。まあ痛えだろうけど、これからの長い苦しみに比べりゃチョロだろ。

 遺書も一応書いて、一応登山の準備とかしてさ。不謹慎かもしんねーけど、正直遠足みたいな感じでちょっとワクワクしてた。

 決行前日になって、いっちょまえに人生の思い出とか振り返んだけどさ、ないのよ、これが。本当に全然ない。


 うわあ、クッソつまんねー人生って思って。



 で、山の頂上にいんのよ。

 まあ、こんなモンかって思って。


 流石に頂上からだと人の目とかあるだろうから、全然人通りのないルートに降りてってさ、ちょっと確認した後にダイブ。


 あ、椅子にもたれかかり過ぎて床に落ちた時に似てるわ、って感じを味わってから、すごい音がしてさ、目の前が一面スパークしたわけ。

 本当マンガみたいになるんだな、実際星が見えたね。まあ「★」みたいな形じゃなくて、大量のパチンコ玉を視界にぶちまけてみましたみたいな感じだったけど。



 で、意識がね、まあ、ぼんやりしてくるんだが……


 そん時にさあ、見ちゃったんだよね、この世の真理を。

 

 俺の口からさ……死んだ時に着る服あるじゃん? あれを着た金髪の色白ボインが出てきたんだよね。

 そのがさ、マジで俺の好みだったんだよ。


 出終わったらさ、その娘と俺、目が合って。

 そしたら笑ったんだよ。俺はきょとんとしたままだったけど。


 そのまま、笑いながら駆けていったんだ。

 ボロボロの俺には「待って」と言うことも、手を伸ばすことも、許されなかった。


 俺、思ったんだよ。

 あの娘のことは初めて見たし、どういうことなのかもさっぱり分かんねえけど、

 ずっと俺のなかにいてくれたんじゃないかって。

 人によって違うコになるんだろうけど、誰しもが持っているものなんじゃないかって……


 そしたらさ、涙がドバドバ出てくるのよ。

 俺、今、スゲー取り返しのつかないことをしたんだなって思って。


 あんな娘が一緒にいたんだって分かってたらさ、イマイチに見えてた俺の日常も最初っから神ゲーだったんだよ。

 でも俺はそれを見ようともせず、勝手に独りだの、周りと比べてだの、悪いところばっかり見つめてた。


 それで、しんどくなって、目を閉じた。



 え? それじゃなんで今話せてるかって?


 そりゃあ、生きているからだよ。


 目が覚めたら、自室で、枕元には遺書と登山セット一式があったんだ。

 

 要するにさっきのはリアルな夢だったんだよ。


 ため息ついたよ。そのあとは遺書びりびり破いて、普通に登山した。



 今だって独りだし、不満タラタラだけどさ。

 少なくとも、生きている限りは金髪色白ボインは(俺との距離が近すぎて見えやしねえけど)居てくれるんだよなーって思って。


 それが俺の「生きている理由」を聞かれた時の言い訳。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

俺が生きている言い訳 脳幹 まこと @ReviveSoul

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ