第30話 接敵
「ーという事がありました」
「なるほどね、その後は?」
「あの主犯と見られる女の
なるほど、それで僕らを追加の追ってと勘違いして薙刀で迎撃をしようとしたってわけか...
「ありがとう龍星くん、横になって少し寝てて」
今僕達は、悠奈と僕、龍星君に明井穂村さん、それと少しだけの護衛をつけてリムジンに乗りながら浅草寺に戻っていた。
二人には治療が必要だ、その為にも浅草寺に常駐している治療に特化した神と医者に見せる事が最善だ。
その為一度慈恩さん含む神達を残し、僕らは先に帰ることにした。
今の龍星くんの話から、敵の本拠地は理解できた、東京都心から南方287kmの海上にある、伊豆諸島の一つ八丈島、その廃墟に潜んでいる。
別れる前にその話を聞いた慈恩さんは一言
「その話はやっぱりおかしい」
その言葉に対し龍星君も同じく頷く。
「ああ」
「八丈島へ行き来するには、1日1度の船か3度の飛行機に乗るわけだけど...この人数をどうやって、それも誰の記憶にも残らないように行き来させてるのかって疑問が残る」
「可能性は2つだろう、本島にも拠点がある、もしくは移動させる力を持った神の存在」
「...よし、美幸くん、僕を含む神で最後の廃墟に行こうと思う、龍星くんが穂村さんを見つけた場所は廃墟のすぐそばだ何かある可能性は高い、美幸くんは穂村さんを連れてすぐに浅草寺に戻るんだ、一応護衛に、天凱ついて行ってくれ」
「はッ!」
「それなら僕もッ!」
「いや...接敵する可能性が高い、美幸くん今の君じゃあ足手纏いだ」
「.....わかり、ました」
その言葉に反論する事はできなくて、二手に別れた。
この時僕は...どこかほっとしていた。
あの倉庫の惨状、殺さなければ死ぬ世界、龍星君の引きちぎられた腕、血塗れで撃たれた跡のある穂村。
怖かった
自分の敵がとても怖く感じた、まるで住む世界が違う、平然と人が死に殺し殺される世界、そんな奴が...玲香達を拉致した。
いつだって事が起こるのは僕がいない場所、結果だけの報告、顛末だけ聞かされる。
そのボロボロの体だけ見せられて、恐怖だけが増していく。
でも同じくらい...自分でもわからない何かモヤモヤとしたものが胸の奥、僕の中で燻っている。
気持ち悪い、気分が悪い、吐き気がする。
これはきっと死体を見たから、凄惨な現場の空気に当てられたとかじゃない。
体の中を何かが渦巻いている。
「あーもう...くっそ」
本当に僕は...
「そんな顔しないで、少しは喜んでもいいんですよ?穂村さんは帰ってきた、奴らの居場所もわかりました、あとは美幸くんの大切な人達を取り返すだけ、あと少しです」
「そう、だね...うん」
車の中、隣に座る悠奈がそういってニッと笑顔を浮かべる。
この娘は神社であった時からそうだ、僕が不安な時ほど安心させるように笑う、その笑顔を見ているとつい力が抜ける。
「ありがとう」
感謝の言葉に悠奈はとっても嬉しそうに笑みを深めた。
「遮るようで申し訳ありません美幸様」
「どうかした?あ、傷が痛むのッ!?」
「いえ、軽い応急処置は終わりましたので、私も慈恩に加勢しに行こうと思います」
うん.......は?
「その重傷で何言ってるの?」
「やはり、百聞は一見にしかず、いくら慈恩と言えど話を聞いただけでは苦しいでしょう、一度奴の力を目視し逃げ切っている私が行くのが助けになるかと」
その考えは分かる、必ず玲香達を奪い返すためには龍星君という戦力は絶大だ、平時ならお願いしただろう。
けれど、そんか状態で殺し合い?...死にに行くようなものだ。
「ダメだよ、寝てて」
「美幸様、私はただの道具でございます、あなたの望みが叶うならば壊れようと捨て置き下さい」
「何言ってるの?寝てて、これ以上怪我したら死ぬかもしれないんだよ」
「そうなれば、私はその程度の道具だったということ、私は美幸様の道具に相応しくなかったということ、悔いはありません」
狂言を口にするその顔は、あまりに清廉で真剣な眼差しに話が通じる気がしなかった。
どうすれば止まるだろ、ごねてみる?怒ってみる?...いやきっと、こいつは止まらない。
付き合いはそんなに長くないがなんとなくそれは分かる。
放たれた命令という弓から、真っ直ぐ止まることのない矢のように、命令を完遂するまで命を尽くす。
ブレーキぶっ壊れた特急電車のようだ。
僕の言葉に「失礼します」とだけ口にして、武器を取りに一つ前の部屋に入って行ってしまった。
「全く困ったものですね」
「ああ、どうにか止めないと」
「ほっとけばいいと思いますが...そうですね、美幸君...今から私がいうように口にしてみてください」
困り果てる僕の様子に、手助けをするように隣から悠奈が耳にこそっと耳打ちする。
その内容は...なんというか、普段の僕じゃあ絶対にしない言動を推奨する内容だった。
「悠奈流石に...」
「騙されたと思って、さぁ」
「えー...んんッ」
喉の調子を整えて、薙刀を持って帰ってきた龍星君に対し厳格風な主人から奴隷に対するような、目を細め、足を組み言葉を紡ぐ。
「北代龍星、きみの役目はなに、今すぐ答えて」
この僕の姿に、強気な声色にすぐさま薙刀を置き、膝をつき頭を垂れた。
「私の役目、美幸様の願いを叶える道具であり、御幸様の矛となりこの身を持って盾となることであります」
「なら今は休め、これは命令だ」
「ですがッそれでは美幸様の願いに万が一が...」
「道具が主人の命令に意見するの?」
「...はッ!!申し訳ありませんッ!道具に意思など必要ありませんでした、即座に万全を目指し休息に入ります」
いやそこまでは言ってないんだけど...まあいいか、しっかりと横になって目を閉じた龍星君を見てホッと息を吐く。
「上手く行ったでしょ?」
「うん、ありがと悠奈」
悠奈が耳打ちしてくれたのはたった一言、偉そうに理不尽に命令して、とだけ。
それだけで龍星君は大人しく、今休憩してくれている。
「龍星君の理想は理解してますから」
「理想?」
「龍星君は美幸君にもっと偉そうに、命令してほしいんですよ」
偉そうに命令、まあ僕の性に合ってないことだ。
命令っていうのは経験に基づいた自信がある、立場が上のものがすることで、きっと龍星君はそんな神を求めてる。
僕には経験も自信もどちらもない、僕じゃあきっと龍星君の理想にはなれない、けど彼は僕に心酔しているように思える。
やっぱりこの力に惹かれているのだろうか...
それは、少し寂しいな...
(そう、龍星にも理想があるように...私にだってあるんですよ?美幸くん)
ふぅと小さく息を吐いたその横顔を、怪しげな蒼い瞳が妖艶に見つめていることに気が付くことはなかった。
※※※※※
「なるほど、これは...まずいな」
美幸達がいなくなった血まみれの廃墟で、慈恩中心に目の前に死体の山が積まれ、その周りを白装束の神5人が五芒星の形に座り込み、幾何学的な模様のなにかがつつみこんでいる。
そのさらに周りを残りの白装束の神達が取り囲んでいた。
(目的も、こいつらが何かも全て理解した...けどこれ、下手したら終わる)
慈恩は他人の記憶を読むことができる、そしてそれは生者だけではない、死者の記憶すら読める。
この死体の山から、敵の正体、美幸君の関連性、イタリア軍の意図、アメリカとの密約、そしてこの件における主犯女神リリア。
てか、この死体の山全部神なのかよ...人間の身でありながらこの数の神を殺すなんて、あいつ本当に人間なのかよ。
(ふぅー、一度落ち着け慈恩、冷静にまとめるんだ)
まず敵の正体、イタリア軍であり女神リリア、だがこの二つは目的が違う。女神リリア個神としては、復習対象を殺すこと、そして今回はどう言った手法かは分からないが復習対象の息子、滝蓮斗を見つけ拉致、その場にいた美幸君を含む学生数人が拉致された。滝蓮斗から親の居場所を知れると期待しての犯行...
そしてイタリア軍としては、リリアとの密約
『復讐を遂げるためイタリアという国が全面協力する代わり、リリアが国神を務める』
この条件を今後も継続させたい。
つまり、リリアに復讐を遂げてもらっては困る。
その為余計な事がリリアに伝わる前に滝蓮斗を暗殺したい、だがイタリア兵士に暗殺させたら足がつき、万が一リリアにイタリアに対して不信感を持たれれば、関係が拗れる可能性がある。そのために使ったのが明井穂村。
『そこでだ、一つ条件を飲むのなら君を生かして家族の所に返してあげようと思う』
『条件?...』
『滝連斗を殺してほしい』
明井穂村はそれに対し、頷いたフリをしながら、武器を手にまさかの脱走。
そしてその後、追い詰められた末龍星君に保護された成り行き。
問題は二つ、まずリリアの強さ、リリアはイタリアだけではない、アメリカを下している。そしてその力は、万が一予想通りなら...勝ち目がない、ということ。
そしてもう一つ、天がイタリアと同盟を組んでいるということ、基本的に僕は天神の会議に出席しないため知らなかったが、天神がイタリア軍の自由を保障している、そんなイタリア軍に噛みつけば他の天神連中と戦争になりかねない。
そう、これがメインに考えなくてはいけない二つの思考、まあぶっちゃけ戦わないがベストな選択肢だ。
そうすれば被害はほぼない...ただその場合、伊那美幸を敵に回しかねない。
正確にどれほどの力を持っているのか分からないが、あの神殺し北代龍星が唯一主人と認めた神だ、はっきり言って...かなり怖い。
あぁー下手うったな、天神1神くらいなら敵対しても問題ないと思ってたのに、流石に天神の総意に喧嘩を売れば全面戦争は避けられない。
イタリア軍に研究施設を用意した周到さ、八丈島とか性格の悪さを見るに、第十席ジギルあたりが怪しい。
あのクソ野郎がッ...狙いはなんだ?
「どうする...一度帰るか?」
何も見無かったことにして、浅草寺に戻る?
正直ありだ、この事は僕しか知らない。みて見ぬふりをしても、問題はないんだが...それでいいのか?
そもそも何故僕は美幸君を助ける事を決めた?...
彼が神らしく無かったから、ただ力を持ってしまっただけの人に見えたからだ。
僕は
「ッ...!!」
「何だッ!ぐぁッ!」
「迎撃しろ!絶対に慈恩様に近づけさせるなッ!」
天井が爆ぜ煙を纏う何かが落ちてくる、それに対し即座に神達が迎撃に向かう。
だが、即座に煙からぶっ飛ばされちぎっては投げられ飛んでいく神達。
その様子を眺て、大きく息を吐き方の力を抜いて頬を大きく叩いた。
(...覚悟を決めるか...あくまであっちから襲ってきて反撃したなら大義名分も立つだろ、これなら美幸君も裏切らないし天神も敵に回さない)
煙から一歩、また一歩と黒いヒールが見え、銀髪がチラリと映る、その姿にため息混じりに笑ってしまう。
「慈恩様ッ」
「みんな、下がって」
五芒星に座る神達を下がらせ、結界を解く。
仕方なく立ち上がり、紫色の瞳を爛然と輝かせる化け物に相対する。
「やぁ君がリリアさんだね、初めまして」
「...お前が美幸さま?かしら、随分私の手駒を殺してくれちゃってまぁ...ところであのいけすかない男はどこかしら、死んだ?」
なるほど、こいつはそもそも僕を知らない、天神の1人だとは理解していないわけか...
「さぁ、僕は美幸様ではないけど...まあ簡潔に自己紹介を、君の敵だよ」
「そう、じゃあ死になさい」
「あ〜待って待って、君の相手は僕じゃない」
容赦なく向けられた拳銃に動じることなく、指輪上に向けた。
陽の光が誰かの影を浮かび上がらせていて、瞬間慈恩とリリアの間に凶悪な金棒が降ってきた。
「どうも葉織商会でーす」
「出張ご苦労様」
「おう慈恩てめぇ、何て所呼び出してくれやがるクソが」
「待ってたよ葉月、もう少しでいじめらてしまう所だった」
本人の倍はあろうかという大きな金棒を肩に担ぎ、和菓子屋のような葉織商会のロゴが入った制服に前掛けを着るライム色の髪をした吊り目の女、天神第九席葉月は不機嫌そうにリリアを睨みつけていた。
口無しの貴方へ〜懺悔と後悔に彩られた僕の神話〜 ゆづ @yuzukiti13
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