第29話 北代龍星の回想
胸が高鳴っているのを感じていた。
細胞の一つ一つが歓喜していた。
ああ俺は今この時の為に生まれてきたのだと。
ずっとずっと、生徒会長だとか天だとか、くだらないモノを続けていたのも全てはこの日の為。
美幸様の為に動く事ができるこの日の為だ。
そして今後も、一生涯使っていただくには必ず結果を残さなくては...
生徒会長をしている間、全校生徒の名前も顔も声も全て脳内にインプット済みだ、そして今回探すべきは滝蓮斗、胡桃玲香、明井穂村、以下3名。
必ずご期待に応えなくては、それが出来ないのなら俺に生きている価値はない。
ほぼ休憩なく走り回り、4箇所目を回った時だった。
「答えるわけ、ないでしょ...」
「日本語が通じていないのか?応えなければ
ビルの間を駆け回っている時、人気のなく曲がりくねった路地裏で脳内にインプットされたボイスの一つが聞こえた。
声に導かれるままに屋上から飛び降り、ビルの壁に薙刀を突き刺しその上に乗りながら、下の路地裏の様子を確認、銃を突きつけられている女を目視。
その紅髪に脳内メモリと合致する声色、確実に明井穂村だと確信した。
相手の軍人のような武装からしてただの人間だと判断、即刻ー
「殲滅する」
薙刀からするりと落下し、その勢いのまま薙刀を掴み壁から引き抜く。
そして武装した兵隊の上に落ちる瞬間、薙刀が風を切った。
「え...なに...」
「無事か?明井穂村」
その問いかけと同時に、銃をつけつけていた男の首が落ち、周りの軍人達からも血が吹き出しまるで雨のように辺りを染めた。
「Quello che è successo!?」
「た、隊長をよくもッ!?」
「...な、なんだ貴様はッ!?」
何か後ろが騒がしいが気にする事なく、目の前の
外傷が目立つ、特に肩の傷が深い、血も出過ぎているしかなり呼吸も乱れている、このままでは失血で普通に死ぬ。
「口を開けろ」
「は?...そ、そもそもあんた誰ッ!むぐッ!?」
念の為葉織紹介で購入し用意していた封水が役に立った。
とはいえこれは今ある傷口や血液を封印し今後悪化する事をなくす神薬、現状維持の薬だ、回復は望めない。
さらに痛みは響き続ける、精神的に負ければそのまま死にかねん。
「お、お前は一体な...」
「少し黙れ、殺すぞ」
薬の反動から意識をなくした穂村を背中に担ぎ上げ、ギロリと軍人に視線を強く向ける。
「さて、今からお前らに質問をする、一字一句言葉を逃すな、全細胞を持って答えろ、黙秘するたびに1人づつ殺す」
「くッ!!」
「この女と同じ制服の残り2人はどこにいる?」
「...知らない」
その反抗的な目に、ああ嘘か、と右手を振り上げそいつの首に振り下ろす。
綺麗な切断面、頭が転げ落ち血が吹き出す、その一切躊躇のない様子に周りは息を呑んだ。
全く理解が遅い、銃を突きつけた男を殺した時点で理解しろ、無駄に工程を増やすな。
美幸様のためにも時間は無駄にできない。
「次はお前だ、答えろ残り2人は何処にいる?」
「わ、我々の本拠地にて、軟禁されている」
「本拠地の場所は?」
「...それは...」
口淀む様子に呆れ果てて、また薙刀を振り上げる。
「もう一つ死体を増やした方がいいらしい」
「待ってくれ今答えるッ!!は、八丈島だ!」
「ッ!」
薙刀は男に落ちるスレスレで止めた、何故なら目の前に黒光する拳代の何かが飛んできてー
即座にその場を勢いよく飛び退き路地裏から飛び出した。
瞬間爆音が路地裏から響き爆風が吹き荒れる。
「くッ」
味方ごと爆発させるとは...いやそれはまだいい、人質は時に敵よりも厄介だ見捨てる判断は正しい。
投げられた手榴弾に弾丸を当て、衝撃で即座に爆発させたのもまだ分かる、だが...なんだこの威力は...
だがあいつが投げたのは、最早優しめのTNTと変わらない。
即座に着物の袖部分を破り捨て、紐にして自分の体と穂村の体をぐるぐる巻きで縛り上げる。
「ふーん生きてるの」
気怠そうな声で煙と破裂した血で汚れた道から姿を見せたのは、銀髪を風でたなびかせる黄色い瞳の女。
不満そうにこちらを睨みつけてくる。
こいつが美幸様の敵か...いや確実に黒幕だろう。
こいつの纏う雰囲気は神独特の気配、それにこの威圧感は最上位の神、天神に匹敵する...いやもしくはそれ以上か?こいつの前に立っていると常に死が脳裏によぎる。
「お前が黒幕だな、目的はなんだ」
「女神に対する第一声がそれ?てか、あんた何?」
その問いかけには答える訳にはいかない、美幸様が本気になればこんな女即座に消えるのは目に見えているが、今ではない。
「まあいいわ、そこの女ごと動けなくして連れて帰るから」
「ッ!!」
殺意と威圧がこちらに向き、その瞳が紫色の模様を宿していた。
向けられる銃、発砲と同時に明確に俺の額を狙った弾道、この程度当たるわけがない、薙刀で正確に弾丸を弾いた瞬間、俺の左腕と左肩から血が飛んだ。
「.....ふむ」
発砲音は1発、弾丸も1発、だが2発目の弾丸が肩を貫いた。
跳弾が当たった?いやそれはないだろう、薙刀でどの程度の力で、角度かを完璧に理解し、跳弾として狙って俺の肩に当てるなど現実的ではない、もしあったとしても偶然だ。
ならなんだこの女の神通力は、手榴弾の大爆発と、見えない弾丸、この二つに一切共通性が見えてこない。
経験則だが、こういった複雑な力を持つ神こそ手強い。
燃やす、なり、速度を上げる、鉄の硬度をもつ肉体、などわかりやすい力こそ対処はし易いのだが...
「あんたさ、どこの人間?Giapponeなら基本的に天神よね」
「天神だと?笑わせるな、俺は偉大なる神の従順なる僕だ」
「まあ...どっちでもいいのよ。私はね、身の程を弁えろと言ってるの、私はイタリアの国神リリア、あなたは今私という国に喧嘩を売ってるって事なの、そんな馬鹿げたことただの人間の身、ただの一介の神でありながらあまりに傲慢な事よね」
まるで諭すようなその声音に、今まで感じたことのない怒りが脳裏によぎった。
傲慢?
傲慢だと?
それは今生きとし生けるもの全てに言える事だ、この世界に存在するものは全て美幸様に頭を垂らし今生きる許可を求めるべきだ。
お前らが今平然と空気を吸って、快楽を求め生きていられるのは全て美幸様がお優しいからに過ぎない。
だというのに人間も神もそんな事理解せず生きている、これを傲慢と言わずなんという?
...とはいえ美幸様としてもいちいち許しを与えていたら煩わしいだろう、だから今生きている者たちを黙認している。
だがこの女は今何を口にした?
美幸様に対し傲慢だと?
「傲慢だと?お前こそ誰を敵に回しているのか全く理解していないとみえるな」
「.....」
「断言しよう、我が主、美幸様を本気で怒らせれば...お前は後悔の念を抱き必ず死ぬ、ついでにイタリアが地図から消えるかもしれんな」
「はッ馬鹿ね、あんた騙されてるんじゃない?その美幸とかいう神に、神は万能じゃない、あくまで一点に特化し異能を神と言うのよ、イタリアを地図から消す?不可能ね」
「...お前程度の物差しで我が主を語るとは愚かな...まあいい、せいぜい美幸様の逆鱗に触れない事だ、無理な話しだろうがな」
「ええ無理ね、だって今からあんたを殺して、生首をあんたの主人に届けるもの」
「無謀な夢を見るな」
手の裾内から転がり落ちる幾つもの球は、地面に落ちると同時に煙が吹き出す。
「力の詳細は分からぬが、目を媒体とした力なのだろう?発動条件は視界内に相手を捉える事、なら塞いでしまえば良い」
瞳に浮かぶ紋様、あれは瞳に力を宿す神達共通の現象だ。慈恩も瞳を行使して、過去を盗み見る。
そしてこの瞳を行使した力には共通した弱点がある。
視界に捉えられなければ、直接作用する事ができない。
「馬鹿ね」
「なッ...」
煙の中飛び上がり壁を蹴りながら屋根に飛んだ俺に対し、見えていないはずが発砲音と同時に腕と足に弾丸が突き刺さる。
「お前程度が
「ッ...」
なるほどこれは...俺では殺すのは無理だな、相打ちであれば殺せる可能性はかなりあるが、命令である明井穂村の命は優先するべきだろう。
「ふーむ」
いくつもの思考を天秤にかけて重さを測り熟考する事約2秒。
.......逃げるか。
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