第28.5話 滝蓮斗
小学校6年生になるまで、人は死んでも生き返るんだって思ってた。
ゲームの中はそうだった、つまりそれは俺にとって現実と何も変わらない、俺にとってゲームは現実だから。
「最後のチャンスよ、答えなさい」
子供の頃から俺は、なんでもできた。
スポーツも音楽も家事も勉強も人付き合いも恋愛も、出来過ぎるほどできてしまう、神童と言う言葉が俺にはよく当てはまった。
あらゆる教師の技術を全て盗み、教えられることはもうないと言われてしまうほど。
周りの家庭からも、誰からもこの才能を羨ましがられた。
ーけれど、母は喜んでくれなかった。
「お前の父親はどこにいる?」
バイオリンの発表会、大きなホールで拍手が響く。
とても小学生には思えない
なんて才能だ
そんな言葉に胸を張り見に来てくれた母に視線を向けて、俺はショックを受けた。
母がとても苦しそうな顔をしていたから。
父親がまだいた時、いつもしていたその顔がそこにはあった。
「あいつは今どこで何をしているッ...答えろッ!滝蓮斗ッ!!」
そんな顔をして欲しくなかったから俺は頑張ってきたのに...その努力が、天才性が、父親を想起させていた。
結局俺が母親に同じ顔をさせている。
父親に似ている俺は、やっと解放された母親にこれから先一生親父の面影を感じさせ続けるのだろう...
そんな事なら全て捨ててしまえばいい。
「...........もういいわ」
勉強も人付き合いも恋愛も全部雑でいい。
俺が母のためにすべきなのは父親がしない行動、顔もできるだけ見せないほうがいい、あまりかかわらず不良のように好き勝手しよう。
別に好きじゃなかったが自分の人生を消費するようにゲームに明け暮れた。
母の視界に入らないように、山の家に籠り始めた。
俺の心を満たし続けるようにゲームに明け暮れた。
...クリアしたゲームが200を超えたあたりで...気づけば高校生になっていた。
そこで俺は、美幸に出会った。
言語の機能障害で喋れない人間、
普通の人よりさらに何もできない人間、
それが第一印象。
それで気づいた、こいつは出来過ぎた父親の反対、つまり俺が目指すべき存在なんだって。
ちょうど良かった、休日も親の前にいないため、家にいないために部活を作りたかった、それには人が必要だ。
それにコイツほど都合のいい人間はいないだろう。
今となればどうやって声をかけたのか覚えてない、ただその無を孕んだ瞳は、まるで鏡に映る俺のようだと思った。
「貴方の母親に聞いてみましょう、そうきっと知ってるわよね?...ならもうお前みたいな使えない奴はいらない」
最初はなんの会話もなかった、けど毎日美幸は来る。
そしてそんな毎日の積み重ねから少しづつ、文字と言葉を交わして、見て知って気づいてしまった。
それは俺だけじゃない、この学園で美幸の秘密に気づくやつは稀にいる、そしてそいつらは決まって美幸に絡み出して...
しばらくしたら記憶を消されて何も無かったみたいに日々を過ごす。
その裏に生徒会が絡んでるのも気づいてた。
俺が無能だと馬鹿にしていたコイツは誰よりも稀有な力を持っている、そしてそれを隠してる。
それでいいんだと思ってた。
休日も毎日部活に来る美幸と俺、そんな風に能力を隠したい者どうし、2人で人生を浪費していけばいいって、そう思ってた。
日常をぶっ壊す、あのイカれた女が現れるまでは...
そいつは俺のように臆病じゃなかった、支離滅裂で、破壊的で、まるで物語の勇者のように美幸の檻をぶち壊して連れ去っていった。
俺がずっと恐れていた一線を軽々と超えていったんだ。
不安だったんだ、もし俺が踏み込んで記憶を消されたら誰が美幸のそばにいてやれるんだ?...なんて
そんな建前に
そんな言い訳を並べて現状に満足している振りをしてた。
「さよなら、恨むなら父親を恨みなさい」
あぁ、最後に思い出すのはやっぱり、どんなに感動した名作のゲーム、ではなくて、お前らなんだな美幸、玲香。
もし次があるのなら、次こそはうまくやる、美幸の問題だって俺が必ず解決して、あの居心地のいい部室を守ってみせる。
だから...
振り抜かれた刃、飛び散る血潮、転がるそれに目を向けてリリアは憎たらしく舌打ちを一つ。
「気味の悪い顔」
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