上司を殺していいわけ
単三水
上司を殺していいわけ
「はぁ…」
木口は言い訳の多い性格であった。その理由は都合の悪いことを誤魔化すため、と思った人も居るかもしれないが、そうではなくただ単に相手に自分に起こったことを理解してほしいからである。この男、濡れ衣というものが嫌いであり、それと同時に理解の無い一方的な叱責も同程度嫌いであった。そのため、理不尽な怒号に反論し、それによりさらに相手の反感を買うことが多い不器用な男であった。
「何故俺が怒られなければならないんだ…真実を述べているだけなのに」
それに加えて、結構神経が図太かった。
「や、やってしまった…」
木口は嘆いた。今後の人生をどうしようかと後悔した。目の前には死体が一体。此処は路地裏で、目の前の死体は上司だった。先述の理不尽な怒号、これは大体がこの上司によって発せられたものである。飲み会の帰り、酒に酔って潰れた上司を家に送る役を押し付けられてしまった木口。この男もまた酔っていた。そして上司が吐きそうだからと裏路地へ連れて行くが、ここで上司がまた理不尽な怒号を浴びせてしまった。これが上司の運の尽きである。木口はこれまでのストレスと酒の勢いが最悪な組み合わさり方をし、その場にあった大きめの石でガツンと一発殴ってしまったのだ。酔いはこの直後覚めたが時すでに遅く、上司は頭から血を流しながら動かぬ肉塊と化していた。木口は上司を殺して良い訳を模索した。そんなものは無かった。木口は思案した。これから大人しく自首するか、それとも何処かへ逃げるか。
逃げた。既に混乱している木口の頭は、何処かへ行方をくらますことを選択した。だが、すぐに第一発見者の女子高校生に通報されてしまい、警察にこの事件の犯人として特定され、取調室へと連れて行かれた。
「俺がやったのは本当です、でも日々の理不尽に耐えられなくて…」
どのような理由があれ、人を殺して良いというわけにはならない。言い訳は良い訳にはならなかった。ただそれだけであった。
上司を殺していいわけ 単三水 @tansansuiriel
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