蒼くとける

青ノ

序章

光が届かない闇がどこまでも広がっていく。


都会の喧騒から離れた小さな駅から半時間ほど歩いた海辺には風化から塗装が剥げてコンクリートがむき出しになった塔がぽつんと佇んでいる。


一昔前は親子連れの観光客が海を見渡す穴場として休日は名所であるかのように昼間は賑わいを感じられていたのだが、ここ数年は県の中心部に大型のショッピングモールが出来た為彼らの姿は無くなった。



それでもこの村で生まれ育った先日成人を迎えたばかりの少女は毎週水曜日決まった時間に灯台の見張り台に来ては白く柔らかい花弁を咲かせる花を一輪深く蒼に染まった海へ放るのだった。


白く透き通った肌は肩まで伸びた茶色のくせっ毛によって覆われ顔立ちまではよく見えない。


少女の澄んだ琥珀色の瞳に映るものは青く深い闇が溢れかえった夜空と終わりなどないのではないかと思うほどに広い海しか存在しない。


寒さによって白くなった息はまるで海月のように儚く、するすると深い闇に昇っていった。

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蒼くとける 青ノ @aono_sTar

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