何か言い訳はある?
右中桂示
どうしてこうなった
「何か言い訳はある?」
恋人のマリイが怖い顔で詰め寄ってくる。
なにやら背後にドス黒いオーラすら見えた。
それはそうだろう。
なんせ彼女が俺の家に来たら、見ず知らずの半裸の女が熟睡していたのだから。
絶体絶命の窮地。
俺の頭は必死に解決策を考える。
まず、姉か妹と言ってみるか。
いや、髪は白いし鼻は高いし、どう見ても日本人ではない。
それなら、いとことか。親戚に国際結婚した人がいると言えばなんとかなるだろうか。
いや、そもそも正月で実家に帰った時、親戚一同に挨拶してたな。まだそんなの早いと思ってたのにマリイは強引についてきたんだ。
パニックなせいで忘れていた。
じゃあ同僚はどうだろう。
飲み会で酔い潰れたから介抱した。あくまで助けただけであって、それ以外のやましい事はないと言ってみるのは。
いや、飲み会なんてないし、職場にこんな人間がいないのもマリイはよく知っている。
なんせ彼女とは同じ職場だから。
いかん。パニック過ぎてアホな案しか出ない。
じゃあ俺も知らない、というのはどうだ。
帰ってきたら何故か居た、空き巣か何か。
これなら嘘と断言する要素はない。ただ、信憑性は限りなく薄いような気がする。多分信じてくれない。
ダメだ。マトモそうな言い訳が思いつかない。
そもそも、口裏合わせをしてないのだから、起きた後個別に話を聞かれたらすぐに嘘はバレる。
なら、素直に本当の事を言えばいいのか。
いや、やっぱり無理だ。
帰りに「誰か拾って下さい」と書かれた段ボールに入ったポメラニアンを保護して家で世話してたら突然人間に変身した、なんて自分でも信じられないような話、信じてくれる訳がない。
またすぐにポメラニアンに変身してくれればいいが、上手くいく保証はない。言う事を聞いてくれるかは未知数だ。
時間がかかれば、最悪の場合、最低な嘘を吐く奴だと、事実を証明する前に愛想を尽かされて帰られる。
いっそ、してない浮気をしたと認めた方がいいだろうか。
見苦しい嘘つきと思われるより、印象が良くなるかもしれない。
デメリットが大きくても傷を小さくするのはアリだろうか。
いや、マリイを傷つける嘘を吐きたくはない。
この状況では浮気野郎にしか見えなくても、やっぱり彼女が一番なんだ。
「ねえ、いつまで黙ってるの?」
マズい、タイムリミットが近い!
増々焦る。
こうなったらポメラニアン女を叩き起こして無理矢理元の姿に戻すのが一番確率が高いかもしれない。
訳分からん状況でも呑気に寝ているコイツには腹が立っている。
多少手荒になっても仕方ない。と、奴を睨んだ。
「ふあ……」
起きてる。
予想を外されて、身構えていたのに動けない。
もうどう転がるか分からない。俺の行く末はコイツの第一声で決まる。
全力で祈った。
奴は寝ぼけ眼でキョロキョロし、俺を見て、それからマリイを見つけて、明るく声をあげた。
「あ、マスター!」
そしてポン、と音を立てて変身。
ふわふわポメラニアンとなって、ぶんぶんと尻尾を振ってマリイへ飛びつく。
「言う通りやったよ、ご褒美ちょうだい!」
「おバカ! なんで勝手に戻るの!」
「でも『彼の愛を確かめよう作戦』はちゃんとやったよ?」
「まだ終わってないの! 今は黙ってて!」
「あー、使い魔との契約を破るだなんて、魔女失格なんだよー?」
「だからご褒美は後! こんなのでバレるなんてそれこそ失格だから!」
「えー。今がいいのにー」
「今我慢したらご褒美を増やす! 約束するから!」
「じゃあいいよ!」
「はあ、疲れる……」
「なあ」
俺の冷めた呼びかけに、マリイはビクッ、と飛び上がる。
ぎこちない動きで顔を上げて、乾いた笑いを浮かべていた。
そのリアクションが、今のふざけたやりとりは事実なんだと語っていた。
そっか、本当なのかー。
……うん、なんか全部勝手に喋ってくれたけど、正直全然ついていけなかった。
それでも実際に見た以上信じるしかない。
どうやら俺の彼女は随分とファンタジーな存在だったらしい。色々と問い質したい。
が、それは後回し。
今重要なのは、この一件は全てマリイが原因だったって事だ。
とりあえず、この言葉から始めよう。
「何か言い訳はある?」
何か言い訳はある? 右中桂示 @miginaka
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます