大好きな、だけなんです!

スロ男

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 田舎にはイオンしかデートスポットがないとネットでネタにされ、そんなことはないと僕は思うのだけれど、やっぱり今日もこの「AEON」の看板の下、バスのロータリーの待合所に来てしまった。

 もっともデートの待ち合わせのためではなく盗撮をするために来ているのだが。

 今日もきっちりと時間を守って制服の彼女がバスを降りてきた。

 視力のいい僕は遥か先、駐車場の入り口にバスがあの赤紫色の腹を見せたところで、すでに彼女の存在を確認していたので自販機の陰にアンブッシュ。コーラの缶に擬態させたお手製のレンズをXperiaにセットし、用意は万端だった。


「君、かかかかわいいねえ。写メより全然いい」

 うわずった声の男は30前後のオジサン。おそらく「いくつに見える?」と訊くのが趣味の勘違い野郎だ。

 彼女は媚びるでもなく、かといって冷淡な風でもなく、ごく自然な表情で「おにいさんの車はどこ?」といった。

 そっちだよ、そういいながらそっと右手を動かしたものの、その手は勢いに欠けて宙ぶらりん、おもむろに背を向けて気配に耳を澄ませるようにして歩き始め、彼の不安をよそに彼女はしっかりと一歩を踏みはじめる。

 一枚目『接触—アクセプト—』

 二枚目『交渉—ネゴシエイト—』

 三枚目『ICO、ならず』

 さて、僕はそうして彼女の死角になるように後をついて駐車場を横断し(何枚かは絵になりそうな構図が撮れた)、青いスポーツカー、うん、多分スポーツカーなんだと思う、に彼女が乗り込み、男が紳士ぶってドアを閉めたところでふたりの前に飛び出した。

「援助交際、ダメ、ゼッタイ!」

「なんだおまえは……」と物凄く微妙な声音と音量で男が言い、彼女がドアを開ける音がそれを掻き消し、

「人を少女売春みたいに言わないで!」

の叫び声が上書きした。

「そそそうだ、君は何か勘違いをしている」

「『君』なんて言葉、使う奴を僕は信じない」

 尾行しながら、撮影しながら、どんどん印刷していたチェキのプリント用紙をウエストポーチから取り出す。

「そして僕は写真を信じるし、他人も写真のほうを信じるだろう」

 男の顔は青かった。「き、きょきょ脅迫するつもりか?」

 僕はにっこり笑った。

「いえ、脅迫するつもりもないし、おおっぴらにするつもりもないですよ。僕は、ほんとにもう、そこの彼女の援交現場を盗撮するのが大好きなだけなんです! それだけが僕の魂を震わせるんです!」

「援交じゃない!」

 彼女は叫んだ。

「何度も何度も邪魔して、あんたはもう、ほんとにもうっ!」


 イオン近くの土手っぺりで今日もまた彼女の愚痴を聞くはめになった。

「もう、どうしていつも邪魔するのよ。ねえ、お願いよ。どうしたら許してくれるの?」

「許すも何もさっきあいつに言ったのが本心なんだからどうしようもないじゃないか」

「ねえ、キスしよっか?」

「僕は買収されない」

 彼女は大きく息を吐き、吸って、僕を振り払うかのように身を震わし、大地を踏みしめた。

「バカヤローっっ!」

 夕日に向かって叫ぶ彼女の姿を、僕はうっかり撮ってしまった。

 かなり不本意である。

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