【KAC20237】 溺れる

下東 良雄

溺れる

 どうせ、周りの女の子の方が可愛いから。

 どうせ、そばかすで顔が気持ち悪いから。

 どうせ、身体中そばかすでボツボツだらけだから。

 どうせ、胸が真っ平らだから。

 どうせ、お尻も小さいから。

 どうせ、チビのチンチクリンだから。

 どうせ、くせっ毛で髪の毛跳ねてるから。

 どうせ、気が弱いから。

 どうせ、泣き虫だから。

 どうせ、何も出来ないから。

 どうせ、私なんて。

 どうせ。

 どうせ。

 どうせ。


 ただひたすらに自分を愛せない言い訳を探す。

 自分を愛せない。

 自分で愛せない私を、誰かに愛してもらおうなんておこがましい。

 そんなの許されるはずがない。

 わかってる。

 わかっているの。

 でも、苦しい。

 苦しいの。



 私はコンプレックスの海に溺れていた。

 海は荒れ、足も届かない。

 見渡す限り陸地もない。


 だから私は、言い訳という名のいかだを作る。

 そうでなければ自分を保てない。

 そうでなければ自分が壊れてしまう。

 必死にいかだにしがみつく私。

 でも、そのいかだはコンプレックスの海にどんどん溶けていった。

 私は、いかだを作り続けた。

 ただひたすらに、いかだを作り続けた。

 でも、もう追いつかない。


 コンプレックスの海に落ち、漂う私。

 息継ぎも出来ず、何とかしたくて必死にもがいていた。

 水面はどんどん上がっていく。


 私は気がついた。

 誰かがいる。

 私を溺れさせようと、海に劣等感の雫を流し込んでいる誰かがいるのだ。

 その誰かは、いやらしい笑みを浮かべながら私を見ている。


 それは『私』だった。



 灯りを点けず、窓から差す月明かりだけの部屋の中。

 床にうずくまり、両手で頭を抱える。

 瞳からは涙が溢れ、喉からは嗚咽が漏れた。

 もうどうしたらいいのかわからない。

 限界だった。

 私は、今まで口にできなかった言葉を口にした。


「お願い、誰か助けて……誰か……」


 私を慰めるように、銀の月明かりが私を包み込む。

 でも、スマートフォンの画面で微笑む彼は、何も答えてくれなかった。


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