いいわけ
悠井すみれ
第1話
「昨夜の座敷は何ごとだい。
手強い渋面の婆にきつく詰め寄られても、花魁は優美な笑みを絶やさない。時刻は昼見世には早い昼九つ前、夜の帳でごまかしが効かぬ明るさの中でも、花魁の珠の肌は輝くばかり、艶やかな笑みは綻ぶ花のよう。そして、玲瓏たる声は座敷での嬌態を感じさせない涼やかさだった。
「おや、
さとことば、にはふたつの意味がある。
「そうではなく! 昨夜の客に、どこぞの訛りを使っただろう。田舎臭い、あんたの郷の言葉かい」
「どこの言葉かは知りいせん。あのお人の言葉をなぞっただけで──これも、手管でござんすよ」
何を、と言い募ろうとする婆を制して、花魁は白魚の指で
「あのお人、必ずまた来なんすよ。楽しみだこと」
驕慢に取り澄ました花魁が、その実、郷里を懐かしんでいる。自分にだけは、気取らぬ素顔を垣間見せる。それはきっと甘美な夢であろう。俺しかあの女を救えぬのだ、と──溺れる言い訳は投げてやった。
あとは
いいわけ 悠井すみれ @Veilchen
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