いいわけ(言い訳)

あそうぎ零(阿僧祇 零)

いいわけ(言い訳)

 言い訳が上手うま正治まさはるは、ファーストフード会社の本社「お客様相談室」に勤務している。


 ある日、店舗から苦情対応依頼が来た。

 サラダの中に、バッタの後ろ足1本と、腹の一部が混じっていた。客は慰謝料100万円を要求している。


 正治はただちに客の家を訪問した。50歳位の男だった。

 謝罪の後、正治は経緯を説明した。

「当社で異物を分析した結果、コバネイナゴであることが分かりました」

「そうかい」

「サラダの材料は、契約農家から仕入れております」

「それで?」

「生産者は出荷前、異物チェックをしており、各店舗ではレタスを洗浄してから調理しております」

「だが、俺がバッタを食わされたのは事実だろ?」

「はい。ですが、当社の食品管理システム上、バッタが混入する余地はありません」

「何だと! 貴様、俺がわざとバッタを入れたというのか!」

 正治には、客の怒った顔が熟柿じゅくしに見えてきた。


「いえ、決してそういうことではありません」

「ならば、慰謝料をよこせ」

 押し問答は果てしなく続くのか?


 ここで正治は、痛恨の一言ひとことを発してしまった。

「イナゴを食用にしている地方もあり、万一食べたとしても、健康上問題ありませんよ」

 男の顔に残忍な薄笑いが浮かんだ。

「ならば、食べてもらおうか」

 客は正治の前に、イナゴの佃煮つくだにを出した。正治は内心ほっとしてそれを食べた。

「旨いか? 今度はこれだ」

 次に出されたのは、死んではいるが生のイナゴ1匹だ。

「これはちょっと。勘弁かんべんして下さいよ」

「俺が食わされたのは、生のイナゴだぞ!」

 正治は目をつぶってイナゴを口に入れ、ほとんど嚙まずに飲み下した。

「旨そうに食うじゃねぇか。お前、イナゴが好物か? ならば、くれてやる。全部食えよ!」

 男が出してきたのは、一辺が30cm位で直方体の昆虫飼育箱だ。網の内側に、たくさんのイナゴが、びっしり留まっている。

 それを見た正治の意識は、急速に薄れていった。


《完》

 

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いいわけ(言い訳) あそうぎ零(阿僧祇 零) @asougi_0

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