【KAC20237】くらげ鬼

武江成緒

くらげ鬼

 青池ばたの末息子の蔵太くらたときたら、何かとしくじりばかりしては、妙な言い訳ばかりこねるのが常だった。


「田ンぼに落ちて着物をよごしちまったのは、おれのせいじゃねえ。足元で牛糞蛙うしくそがえるのやつがいきなりピョンと跳ねたせいさ」

あお茄子なす畑に水をやれなかったのは、水桶の柄にあのおっかねぇ一尺蜂がでんとまっていたせいさ」

「隣の七坊しちぼうつらはたいたのは、おれが悪いわけじゃねえ。あいつの真っ赤なほおっぺたを抉蝿えぐりばえがぶんぶん狙っていたからさ」


 どんなに手ひどくしかりつけても、ますます妙な言い訳を並べたてるだけ。ほとほと疲れた大人たちもほとんどさじを投げていたが、到頭とうとう、そうも言っていられぬ真似をやらかした。


 なに思ったか夜中にふらりと家の外に出、村のはずれの地蔵堂のお灯明をひっくり返し、村の鬼門をまもるお堂をこんがり焼いてしまったのだ。

 今度ばかりはただでは済まぬと大人たちに取り囲まれた蔵太の口から出てきたのは、ひときわひどい言い訳だった。


「おれが夜中にさまよい出たのはお月さまに呼ばれたせいさ。

 天にのぼったお月さまが銀の光でおれを起こして、夜踊よるおどりにさそったんだ。

 月の光りに腕をひかれて足とられ、お堂まで連れてこられたあげく、私ばかりが光っているのはつまらない、それそこにある灯明とって、お前も光りつ踊るがよいと、おれの手とってお灯明を握らせたのがしくじったんだ」


 あれだけ大それたことをして、お月様に罪咎つみとがなすりつけるとは、と、村の衆は蔵太をさんざんぶちのめし、焼け残った燭台ひとつ持たせ、鬼門から村の外へと追いった。


 骨まで叩きのめされて、足はふらふら、背はゆらゆら、くらげのような有り様ながら、それでも何やらぶちぶち言い訳こぼしながら、当てなくふらつきゆく蔵太。

 ふと気づく。手も足も、何かにとられてひとりでにぐにゃぐにゃ踊っているではないか。


―― 私ばかりが光っているのはつまらない

―― それそこにある灯明もって、お前も光りつ踊るがよい


 ふしぎな声に耳くすぐられて見上げると、いつの間にやら空には輝くお月様。

 ふと見ると、右手に持った燭台には、おなじく銀のがともり、妖しい光を放ちながら、ふわりふわりと蔵太を空へと連れ出してゆく。

 もはや言い訳吐くこともできず、ただただ泣き声あげながら、煌々こうこうかがやく光のなかへ蔵太は吸い込まれていった。


 月の明るくかがやく晩に、銀の光を映しながら、ぐにゃりぐにゃりと夜空を踊る海月くらげ鬼は、蔵太の成れの果てなのだという。

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