いいわけ【KAC20237】

細蟹姫

いいわけ

 最初に言わせてほしい。こんなつもりじゃなかったんだって。

 私はただ、シャイな友人に頼まれて、綾瀬あやせ君から好きな人を聞きだそうとしただけなんだって。


 決して、それを聞いたついでに綾瀬君と一日デートの約束して、手を繋いでお出かけして、一つのベッドで素肌を晒しながら朝を迎える展開なんて、想像していた訳じゃないっ。

 全く、そう1ミリたりとも望んでいた訳じゃないんだよ!?


 …いや、1ミリくらいは雑念が混ざってたかもしれないケド。


 だって、常に学年10位以内に入る頭脳を持ち、サッカー部のエースをする運動神経があり、顔も整ってる。校内にあるファンクラブには、何故か他校生も籍を置いているって聞いたことあるし…

 天は二物を与えずっていうけれど、綾瀬君は二物も三物も与えられてる男だよ!?


 だから、友達から相談を受けた時は、ちょっとだけ焦ったなぁ。

 でも、凄いなぁとも思ったんだよね。だって、私らと綾瀬君はなんていうか、種族が違うんだもん。

 私は「好き」なんておこがましくて言えないって思ってたけど、友達は「好き」って顔真っ赤にしててさ。可愛いなぁって思ったよ。応援したいって!

 

 だから、「綾瀬君の好きな人を聞いてきてあげるね!」って言ったあの時の私は、本当に純粋に、100%の善意で友達の力になりたかったんだ。

 それは信じて欲しい。


 けどさ、仕方ないじゃん。

 綾瀬君の顔、ドストライクなんだもん。


「好きな子いるかって? いるよ。何? 知りたいの? なら、一日付き合えよ。」


 って、甘めの低音ボイスで言われて断れる子いるかなぁ?


 もう、この瞬間ね、友達の事なんて吹っ飛んだよね。

 それは認める。認めますよ。


「いいよっ。」


 って返事をした私は、もうヤリ捨てられてもいいわって思ってたもん。

 だって気になるでしょ!?

 大して仲良くも無かった男女が、その一日で何処まで行けるのか。

 

 結果、行くところまでいってしまいましたとさ。

 凄いよね、嫌悪感なんて全くなくて、流れる様に楽しい一日を過ごしての、自然なゴールインだった。

 綾瀬君は、多分そういうのが上手い。かなりの「たらし」だわ。



 布団の中でもぞもぞと動く綾瀬君の手が、私の身体を引き寄せる。


「おはよ。」

「うん、おはよう綾瀬君。」


 寝起きのボサボサ頭も映える男、綾瀬君。

 その頭を手櫛で整えてあげながら、私は聞きそびれていたことを聞くことにする。


「それで、綾瀬君の好きな子は結局誰なの?」

「ん? 俺を好きになってくれる女子、全員。」

『このゲス男。死ねっ』


 私は満面に笑顔を咲かせて微笑みだけ返しておいた。


 さて、明日は学校か。

 友達になんて言い訳しようかなぁ…。

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