金属探知機の言い訳は

篤永ぎゃ丸

ゲートを通れない、その訳は

 ブ————ッ、ブ————ッ!


 ここはショッピングモールの従業員口。通路にあるゲート型金属探知機の警報音が神経質に鳴り響く。検査に引っかかった中年の男性職員も対応する還暦の警備員も、待ち望んだかのようにニヤニヤし始めた。


「はーい、ボディーチェックしますよー」

「ほ〜い。どうぞ、お好きに見て下さい」


 これはいつもの事なのか、やり取りが馴れ馴れしい。警備員はハンディー型金属探知機を握りしめて、歩み寄る。下手に動けない職員は暇な口を開いた。


「毎回鳴らすってぇのに、迷惑行為で上長につまみ出したりしないのな〜」

「警備も暇でね。素通りされる寂しさを埋めてくれるのは、アンタしかいないんだ。これを、やめて欲しくない……」

「警備員さん……」

「ほら。優しくやるから、両手をバンザイしてくれ」


 職員は身を委ねるように両手を上げた。警備員は金属探知機で全身を舐めるようにボディーチェックを開始。熱い息を呑む一時が流れ、ピーッと機械は職員の腹部で反応した。


「今日は、何を隠してる?」

「その手で、確認してみな」


 探知機を退けて、警備員は職員の上着を捲った。年季が入った指が見つけたのは貼るタイプのカイロだった。


「私は騙せても、機械は騙せないよ。相変わらずだらしない腹をしてるね」

「今日で6ヶ月になるんだよ」

「じゃあ……この探知機エコーで確認を」


 ダッハッッハと笑い声が共鳴する。オッサン同士の悪ノリボディーチェックは続いていくが、ハンディーはピーッピーッと鳴り止まない。


「膝のこれは……サポーターのバネか、腰はコルセットの金属棒っぽいな」

「今日の仕込みはこれだけだ」

「あー待って、アンタを通せないって」


 キョトンとする職員に、警備員は探知機を意図的に膝と腰に近付けて、ピーッピーッ鳴らした。


「その足腰、これ以上慢性化したら大変だ。あとここにも金属が」


 ムフフと警備員は、職員の股間を探知した。


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金属探知機の言い訳は 篤永ぎゃ丸 @TKNG_GMR

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