宇宙の運び屋。キャプテン・カーターの秘密ミッション

無月弟(無月蒼)

第1話

 西暦4023年。人類は生活の場を、宇宙にまで広げていた。


 テラフォーミングされた数々の星に人間が住んでいて、今やドライブがてらふらっと宇宙に出るのも当たり前。

 そんな中、一台の宇宙船が地球を飛びたった。

 船員は一人。キャプテン・カーターと呼ばれている、腕利きの運び屋である。


 普段は大型船に乗り、大勢の乗組員を率いるキャプテンとして活躍しているが、彼が今乗っているのは小さな船。

 カーターはこれで、ある物を求めて火星へと向かっていた。



 輝く星々の間を抜け、宇宙船は自動操縦へと切り替わる。

 手が空いたカーターは、タバコに火をつけた。


「火星までもう少しか……」


 真っ暗な宇宙に光星々を眺めながら、煙を吐く。

 実を言うと、彼は今回のミッションを面倒に思っていた。

 成功したとしても、得られる利益はごく僅か。しかしここ数年地球では不況が続いており、地球で待っている妻や子供を養っていくためには、その僅かな利益でも見過ごせなかった。


 そうしているうちに、宇宙船は火星の大気圏内に入る。

 向かうはポイント1773。そこには大きな建物と発着場があり、何機もの宇宙船が停泊していた。


 カーターもそれらに習い船を着陸させ、外に出る。

 テラフォーミングされた火星の大気内では、宇宙服を着る必要は無い。

 すると、不意に誰かがポンと肩を叩いてきた。


「ようカーター。こんな所で奇遇だな」

「なんだ、ジョンじゃないか」


 声を掛けてきたのは、筋肉質で髭面の男、ジョン。カーターとは旧知の仲の運び屋である。

 彼はカーターの肩に手を回しながら、ニヤリと笑う。


「ここに来たって事は、お前さんも例のブツがお目当てかい?」

「そういうお前もな。まさかお前さんともあろうものが、こんなチンケな仕事を引き受けてるなんてな」

「そう言うなって。今となってはアイツは希少な品。それが格安で手に入るとあっちゃ、動かないわけにはいかないだろ。文句言ってると、かみさんにどやされるぞ」


 カーターは、「違いない」と笑う。

 カーターやジョンだけじゃない。今から始まる売買のために、太陽系内からたくさんの買い手が、ここに集まってきていた。


 二人は売買の行われる、建物へと向かう。


「お互い、無事に手に入ると良いな」

「ああ。だが数に限りがある。事が始まったら、お前でも容赦しないぜ」

「ああ、俺もだ……おっと、もう時間だな」


 建物の前にはブツを目当てに、たくさんの人が集まっている。

 彼ら全員がライバル。だがカーターは、負けるわけにはいかない。


 火星時間の午前9時。建物の扉が、ゆっくりと開かれていく。そして──


「本日限り! 卵1パック99円のセール開催中! 200パック限定、1家族様1パックのみの販売となっております!」


 店員さんのアナウンスと共に、集まっていた客は一斉に『マーズ・マーケット』へと流れ込む。


「待ってろよフサ子! 必ず卵をゲットして帰るからな!」


 2000年ぶりとなる卵の高騰。

 そのためカーターは安売りセールを求め、地球から火星のスーパーまで、遥々来ていたのだ。


 店内は彼と同じく、卵を求める客でいっぱい。

 はたして無事、卵を買って帰る事ができるのか?


 頑張れカーター。地球では、奥さんのフサ子さんが待っているぞ!

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宇宙の運び屋。キャプテン・カーターの秘密ミッション 無月弟(無月蒼) @mutukitukuyomi

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