マシン世界秩序
人生
ウイルスを仕込むだけの簡単なお仕事
人類軍特殊作戦小隊――通称『
彼らの作戦目的は、人類に対し敵対的なAIのサーバー基地にウイルスを仕込むことであった。
たかだが数十キロバイトの文章データを仕込むだけで、敵味方の識別に異状をきたす――心を持たない機械軍団の連携など、絆に結ばれた人類軍の敵ではない。
彼らはそう思っていた。
夜――人類を寄せ付けないために放射能汚染されたエリアの中央、目的のサーバー基地はある。これを包囲するかたちでシックの六人は散開、作戦開始の号令を待っていた。
そんな時である。全員の通信チャンネルに、本部からの暗号通信が入った。
『なんだ……? 「アンラッキー7」……? どういうことだ?』
『幸運でない、7?』
『俺たちは六人だ。それにプラス1ってことは――』
この会話は盗聴されているということか、あるいは――
『第三者と通じる裏切り者がいる、ということだ』
『裏切るって……。人類はみんなもれなく味方だぜ?』
『……聞いたことがある。AIは人類を家畜化している、と。AIに恭順を誓えばある程度の生活が保障されるらしい』
『おいおい、俺たちの中にそんなヤツがいる訳……』
その時である。彼らの専用回線に『7』が割り込んできた。
『マズい、ハッキングだ! 回線を通して位置情報を割り出された』
『動きが速い、ドローンだ!』
防護スーツのマスク内部のモニタに複数の反応がある。隊員たち六名を示す光点に加え、高速で移動する七つ目の赤い光点が隊員の一人に迫っていた。
『防護スーツが……! うわあああ……!』
闇の向こうで響く銃声とマズルフラッシュ。高速で移動する光点に向かってやたらめったら発砲しているようだ。サーバー基地の警報機が鳴る。
『馬鹿が……! 作戦中止、撤退だ! 3、5を支援しながら後退しろ! ……どうした3!? 応答しろ!』
通信からはもはやノイズしか聞こえない。隊員の撤退を支援すべきか、自分だけ先に撤退すべきか、隊長である1は逡巡する。その一瞬が命取りだった。
一つの光点が1の背後に迫っていた。味方の信号に偽装した敵か――そう思い銃を構え振り返ると、そこには見知った防護スーツが。
『3……無事だったか――』
……いや、何かおかしい。3は5と共に1から離れた地点にいたはず――
『3、貴様……!?』
銃声が響く。1の防護スーツに風穴が開いた。
『なぜ……』
『すみません、隊長――私、
とどめの一撃によって、隊長は絶命した。
3のモニターには7つの光点が点滅しているが、それらはいずれも動かない。隊のメンバーは全員3と彼女の操るドローンによって排除された。
3はおもむろに手にしていた拳銃を自身の頭部にあてがう。
『…………』
しかし、3は生き残ってしまった。
『……あんな
突如として送られてきた暗号通信『アンラッキー7』――それは機械軍団の本部から送られてきたものだ。その命令に仕掛けられていたコマンドによって、3の身体はその意思とは無関係に殺戮行動を開始したのである。
いずれは彼らを裏切ることになるとは分かっていた。しかし、まさかこのようなかたちで、自ら彼らを手にかけることになろうとは――
3は声もなく泣いた。
こうなってしまった己の人生を呪う。このようなどうしようもない世界を恨んだ。
しかし、3はまだ諦めていない。
このタイミングで命令が来たということは、『敵』にとって、シックスの今回の作戦には大きな意味があるということだ。3の手にはまだ、ウイルスデータが残っている。
このまま機械に恭順していれば、いつか――この武器を使う機会も訪れるだろう。
その時まで、3は耐え忍ぶだけだ。
――……一連の映像は全て、サーバー基地周辺を警戒していたドローンのカメラが捉えていた。
この映像はやがて、人類が自らつくりあげた――機械のためのネットワークを通し、世界中に残存する人類勢力のもとに送信されることとなる。
疑心暗鬼と混乱によって自滅する特殊作戦部隊の様子――機械に与する人間の存在。
それはさながらコンピューターウイルスのように、人々のあいだに大きな不和をもたらすことになった。
この事件はのちに、その発端となったメッセージにちなみ、『アンラッキー7』と呼ばれるようになる――人類の終わりの始まりであった。
マシン世界秩序 人生 @hitoiki
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